第41話 カチコミなのです!その3
クーナが廊下で殺っている時、部屋の中でも戦いは繰り広げられていた。
「くぅぅぅ」
今、ミラーシャの部屋にあるでっかい柱に背を預けている。
柱には数多の銃弾が撃ち込まれ石製の柱はその破片をパラパラと散らしている。
「ヒャハハ…!このままじゃジリ貧だぜぇ…アデールのお嬢様よぉ……」
すでに周りの男は倒れているが、今柱に銃弾を撃ち込んでいる男は元気である。
男の獲物は両手にオーストリアのクロッカ社の
カスタムはロングバレルにロングマガジンが付いている。
装弾数はロングマガジンで三十三発、それを毎分1,200発というスペックで撃つ。
「おいおいおい、少し弾ばらまきすぎっすよ。そんなんじゃ、すぐマガジンが切れるっすよ!」
「ヒャハハ!マガジンはいくらでもあるんだよぉ!」
両手に持つC18をうまく使ってリロードタイムという隙を与えないように動いている男は流石である。
そんなにらみ合いを続けること十数分。
ついに動きがあった。
柱がミシミシと音を立て始めた。
「ちょぉと!手抜き工事!」
音をたてたかと思えば派手な音とともに柱が倒れ始めた。
ミラーシャはもはやコレまでと勢いよく柱から飛び出すと、牽制弾を放ちながら移動する。
ミラーシャ自身はころりんとまた別に柱に隠れる。
「何度やっても同じさぁ!」
男は容赦無く弾丸の嵐を撃ち込む。
そしてまた、柱が倒れる。
すると今度こそミラーシャは一気に飛び出し、男に近づく。
「ヒャハハ!大人しく死ねぇ!」
男の周りを回るようにしながら近づくミラーシャ。
元々速い足を活かして弾を巧みに避けるが、ずっとそうはいかなかった。
「きゃっ!」
弾が右脚の足の付根に直撃。
9mm弾を至近距離で受けたため、思わずバランスを崩し、倒れそうになる。
「終わりだ!」
容赦無く引かれる引き金。
だが、とっさにミラーシャは自身の左腕を犠牲に頭を守る。
「バレット…レーヌ、舐めんるんじゃないっすよぉー!」
そして、右腕え強く握りしめたハンドホークを相手に向けて放つ。
その弾は男の左胸に直撃する。
男は銃弾をバイタルに受けた為、大きく怯むが、それを逃すミラーシャではなかった。
痛い腕を我慢し、飛び込み前転の要領で転がって、着地。
そのまま男に近づいていくが、相手も銃を受けて向かい撃つ。
左足に弾が直撃していることを感じさせない走りで男の周りを走る、走る。
「コレで終わりさぁ!」
「ハハハ…クソエイム、クソエイム!」
ミラーシャが軽く煽る。
「ガキがァ…!」
男は簡単に頭に血が登ったようで今までより雑に銃を撃ち続ける。
そして数秒も撃ち続ければついにミラーシャの待っていた時が来た。
「ヒャハハハハァ!死ね死ねぇ……」
男が引き金を引こうとするが、スライドは後退したまま動かない。
弾切れである。
それを待っていたミラーシャは男がリロードしようと、空マガジンを落としたタイミングで懐に入った。
「残弾数は体で覚えていくものっすよぉ!!この大阿呆がァ!」
両手に握ったハンドホークを腹と胸に押し付け引き金を一回、二回とマガジンが切れる一歩手前、つまり薬室内部に一発だけ弾が残るようになるまで引く。
「グァァ……」
流石に何十発も弾丸を叩き込まれたらいくら強くても死ぬ。
そのまま男は頭から後ろへ倒れ、そのまま物言わぬ置物と化した。
「ふぅ……最近部下にばっかカチコミ行かせてたし、たまには行くのもわるのないっすねぇー」
痛む足と、腕を抑えながらそう呟いてマガジンを捨て、換えのマガジンを差し込む。
そして、ノアの方を見ると、そちらも佳境に入っていた。
◇◆◇◆◇
ミラーシャと男がバチバチやっている間、ノアの方でも激しい攻防が繰り広げられていた。
「おっとぉ」
「チッ…早くくたばりやがれ…」
今しがたノアの頬に日本刀がかすったようで、たらりと赤い血を流している。
こんな具合に小さいながらノアにはいくつもの切り傷が付いていた。
だが、右手で血を拭うとすぐにノアは動いた。
「よ、っとなのです!」
小柄な体をバネの様に動かし、飛び上がり、銃声を響かせる。
弾は男の左手にめがけて飛んでいたが、男には当たらず、代わりにハンドガンに直撃した。
「もういっちょなのです!」
右腕を振るってナイフを首筋に狙いをつけるが、日本刀に捌かれる。
だが、右足で顔面を蹴りつける。
「チッイッ!」
男は鼻血を流している。
鼻っ面に直撃した蹴りのダメージは大きそうである。
「ラァ!」
男も負けじと連撃を繰り出すがことごとくノアはそれを躱す。
「なのです!?」
ここで、マフィアの援護がうまい具合にノアに刺さり、ノアがバランスを崩した。
「死ねぇ!」
流石にその隙を見逃す阿呆ではなかったようで、横薙ぎに切ってくる。
「うわっとぉ!」
なんとかバックステップでかわそうとしたが、間に合わず、腹を少し切り裂かれる。
「ふぅ…飛んでなかったら死ぬところだったのです」
と、呟きつつ、さっき撃ってきた男に銃を向け撃つ。
「仕留め損なったか………」
「ふぅ…今のはやばかったのです」
だが、ノアもスパイである。
たかだか腹を斬られた程度では倒れもせず、動きも鈍らない。
ノアはエメオリジナルを三発ほど男に向けて撃つが、男は以外に動けるようで二発躱し、一発は刀で弾いた。
だが、これはノアの囮である。
男が弾の相手をしているうちに右手のナイフを男の右腕に刺す。
そしてそのまま切り抜く。
「グォ……」
「ふぅ、さっきのお返しなのです」
ノアが距離を取ると、男は一気に距離を詰めてくる。
「オラァ!くたばりがれ!死にぞこないのクソガキがァ!」
上段から男が両手で日本刀を振り下ろす。
俗に言う唐竹割りである。
「なのですッ!」
ノアは右に90度振り向くと、右肘を折って刀を挟み込む。
もちろん相手は真剣のため、ノアの来ていた服は破れ、関節からは血がたれている。
だがノアは痛みすらものともせず、左手で薬室に残っていた一発を男の顔めがけて撃つ。
「当たらんわッ!」
男は顔を逸らしてよけたが、ノアはニヤァとすると、ハンドガンのマガジン底部で側頭部を殴りつけると、男が怯んだ。
「なのですっ!」
その隙に右腕を抜くと、男に左腕を外し、さらなる隙ができたところでヒョヒョイと男の首元に登り、左手に持ち替えたナイフを後ろから男の左腕の付け根に一気に刺す。
「おい、冥土の土産に教えてやるのです…」
バキィ!
音を立て、首を壊す。
脊椎をへし折ったため、男が動くことはないだろうが、念のため、刺さっているナイフを抜いて、首筋に刺す。
そして、足で男を蹴って着地する。
流石に自分たちより強い相手が倒れたなると、周りで見張っていたり、ちょこちょこ銃でちょっかいを出していた男たちも勝てないと悟ったのか、銃やらナイフを下ろす。
「ふぅ……壊し屋ノアとまだやろっていうのです?」
そう言いながら懐からまたココアシガレットを取り出し、口に咥える。
体中血まみれだが、目は鋭く輝いている……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※1:マシンピストル
…サブマシンガンと同じ様に短機関銃全般を指す言葉としてや、
短機関銃の中でも特に小型な物を指す言葉として使われたりするが、
今作では主にフルオート射撃が可能なハンドガンを指す言葉である。
由来はドイツ語の
代表的な物にオーストリアのグロッグ社のG18や、
イタリアのベレッタ社のベレッタ93F、ソ連のスチェッキンなどがある。
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