第39話 カチコミなのです!その1
9月15日―P.M.11:00―フランス・リヨン・ヴァーグナーファミリー本拠地―
「うし到着」
「行きますかー!」
「頑張る!」
市街地を慣れた操作で運転すること十数分。
ヴァーグナー・ファミリーの本拠地である洋館へと着いた。
周りには鬱蒼と茂る木々のみで他の建物は無く、いかにも建物である。
そんなところに女性が三人。銃とナイフで乗り込もうとしていた……
「そういや姐さんの腰に刺さってるのって何っすか?」
「ん?これはノーバの新型SMGなのです。使ってみるのです?」
「いいんっすか?」
「うん、私が使うよりミラーシャの方が手先器用だし……でも私サイズだから少しちっこいよ」
「うーん……確かにこれは姐さんが持つべきっすね」
「そかー。じゃ、行こっか」
「「わっかりましたー」」
そうして三人は門を潜ろうとしたが………
「おい、おたくらここがどこか分かっとんのか?」
「分かってるから来たのです」
「ハァ?ガキが痛い目見たくなければ帰れ!」
「ガキじゃないのです。レディーなのです」
間髪入れずノアがコレットの引き金を引く。
サプレッサーが着いていないためマズルフラッシュが光り、派手な音がする。
「この!」
もう一人の門番が銃を抜こうとしたがその前にノアに手を射抜かれる。
「おい、ボスに言っておくのです。シルバースノーの初代総長、壊し屋ノアがきたって」
「同じく二代目総長、バレットレーヌ、ミラーシャ」
「二代目副総長、
「し、シルバースノー………あの警察ですら恐れた伝説の………」
「ああ、そのシルバーブレイカーなのです。だから、とっととボスに知らせに行くのです。ボスのタマを取りにきたってな」
そう言うと男は逃げていったが、入れ代わりに出てきたのは数十人の男。
みんな銃を持っている。
「おい、嬢ちゃんら。ここがどこか分かってんのか?」
「ああ、フランスに喧嘩吹っかけようとしている大阿呆がいる屋敷なのです」
「分かってんなら死んでもらおうか」
「嫌なのです」
「なら、無理矢理にでも死んでもらう。行け!」
その言葉を皮切りに男共が襲いかかってくる。
銃、ナイフ、剣、ステゴロ色々いる。
だが、全員ノアたちには攻撃が届かない………
◇◆◇◆◇
「ラァ!」
「くたばりやがれ!」
だらーとしているのはクーナである。
彼女は銃もナイフも構えていない。
ステゴロである。
「ん」
バギィ!
さっきまでの気の抜けた雰囲気ほどこへやら…彼女が繰り出したハイキックは頭蓋骨を砕いたかのような音とともに男の側頭部に刺さった。
「次」
後ろから襲いかかってきた男には振り向きざまに掌底を繰り出す。
その掌底は顎にクリーンヒット。
コレは痛い。
「ほら。本気でかかってこい」
随分気の抜けた言葉とは裏腹に向かってくる敵は確実に一撃で落とす。
「遅い」
少し体をずらせば銃弾だって躱して見せる。
逆に銃を奪って撃っている。
「喰らえ」
近づいてきた相手にハイキックを叩き込むと、続け様にまた違う相手に拳、肘、ローキックを叩き込む。
そしてトドメに後ろから近づいてきた相手に胴回し回転蹴り。
派手である。
うん、めっちゃ派手である。
華があるんだよなぁ〜……
「おい、どけ」
奥から出てきたのは身長は優に二メーターは越えているのではないかという巨体の男で、重さもしっかりある。
「おい、お前が蹴拳姫か?」
「そう」
「そうか、なら死ね!」
男は見かけによらずそれなりの速さで詰めてくる。
だが、拳が届く前に、クーナのハイキックが刺さる。
「おっと。やるじゃん」
しかし、男は倒れなかった。
が、次は来る。
「これは?」
そのままの勢いで胴回し回転蹴り…をいじったスピンキックを叩き込む。
ついでに拳も撃ち込んでおく。
「ほい。片付いた」
さすがの攻めに男も耐えられなかったのか倒れた。
それを見てポケットからゴソゴソと何かを取り出す。
黒の羊革の高そうな手袋を取り出すと無造作に仕舞い、今度はそこら辺で売ってそうなカシミヤの手袋を出して、手にはめる。
「あったかい……」
ほんのりと顔をほころばせ、手袋をした手をこすり合わせる。
「ん、蹴拳姫。まだまだ現役。あと、姐さんの手袋汚したくないから血……出さないでね。でも、羊革の方は破ってもいいよ」
だらけた眼に宿るのはしっかりとした闘志である。
◇◆◇◆◇
「死ね!」
「クソビッチ!」
「おいおい。お口ワルワルっすね〜」
所変わってこちらはミラーシャ。
彼女の手には二丁のハンドガン……由緒正しき軍用ハンドガン、ノーバ・ハンドホークが握られている。
そのどちらにもコンペンセイターが着いており、マガジンはロングマガジンである。
コンペンセイターには龍の牙を思わせる爪が付いており、銃口で殴られるだけで痛そうである。
「オラァ!」
向かってくる相手に一気に距離を詰めると、相手の右手に内側から自身の左手を入れ込んで、懐を開けさせ、そこにハンドホークに付いたコンペンセイターを突きつけ、爪を食い込ませ容赦無く引き金を引く。
相手が悶えているうちに頭を射抜き確実に殺す。
「よっと」
開いた左手では後ろから迫って来る敵に銃口を向けて引き金を引く。
弾は撃ち漏らしもせず、確実に相手を射抜き、追撃の弾を撃ち込む。
「これぐらい捌いて欲しいっすね」
基本素早く相手の懐に入り込んで殴りながら撃ち、空いた手では牽制弾を撃つ。
これを繰り返すのが彼女の戦闘スタイルである。
「遅いっすね〜」
彼女もノアに負けず劣らず身軽で、ひょいひょいっと移動し、慣れた手付きで銃で殴る。
その際銃をぶっ放すのも忘れない。
「死に晒せ!」
八丁のアサルトライフルによるフルオート掃射。
普通なら蜂の巣になるが、彼女はそうはいかない。
「ふぉぉ」
近くの柱を壁にする。
石製の壁は凄まじい量の破片を飛ばす。
普通ならここでリロードタイミングを狙うが、八丁から狙われている今はリロードタイミングはそれぞれ、よってそんなチャンスは来ない。
だが………
パァン!
彼女なら狙える。
そう、彼女の真骨頂は銃を使った格闘術でもあく、ガ◯カタでもなく、リ◯リス・リコ◯ルのアレでもなく、早撃ちである。
それもしっかり狙いを定めてからの。
「甘いっすね〜……姐さんならこういう時真っ先に距離詰めてきてたっすよ〜」
「ということで、まだまだバレットレーヌも現役っすよ〜」
もちろんチャンバーチェックは片手で。
◇◆◇◆◇
「くたばれ!」
「甘いのです」
こちらはノアである。
ノアは向かってくる男にコレットを向けると迷いなく引き金を引く。
その弾は確実に相手のバイタルや頭を射抜いている。
「死ね!」
「生きるのです!」
ノアが張る弾幕をくぐり抜けたものにはノアが右逆手で構えているナイフで喉を差っ引かれる。
差っ引きながら向かってくる相手には片手でコレットを撃ち迎撃する。
あの脅威の射速を誇るコレットを片手で制御できるのは独自の反動軽減機構のおかげでもあるが、それ以上にノアの腕が良いからである。
だがフルオートで暴れていた為、たった数マガジンではすぐに弾切れに鳴ってしまった。
弾切れに鳴った途端、コレットを近くの敵に投げつける。
「さて、コレットも弾切れたし、私が壊し屋とでも言われる所以でも見せるのです…!」
そう言うと、近くの敵に突っ込んでいき、簡単に懐に入ると、相手の持っているハンドガンをフリーの左手でつかみ、そのままハンドガンのスライドを奪う。
奪ったら、銃を持っていた左腕の肩にナイフを持った右手を押し付け、相手の右腕の関節を巧みに砕く。
その時バキッとかいう生易しい音ではなく、バギィッとかいう結構重い音のため、外した程度では無さそうである。
そして、男を近くの男にぶつけ、さっき投げた男の肩を借りて、ぶつけられた男の首筋にナイフを差す。
ついでに投げた男の首筋にも差す。
「よっとなのです」
「Fxxk!」
すっと着地すると、また次の敵が襲いかかってくるが…
「人間の体は基本バラせるようにできてるのです。ほら」
小柄な体を活かし懐に入り込むと、股関節を外し、更に両肩もはずす。
そしてトドメに首の骨をへし折る。
そうすれば完全に無力化された男が出来上がるため、そいつを弾除け代わりにして、マシンガンをぶっ放している男に近づく。
「なにげに首は片手でも折れるのです」
今度は片手で首の骨を折る。
「ハッ!メスガキ風情が死に晒せ!」
横からヒョロリとした男が両手にマチェットを持って飛びかかってくる。
だが、ひょいとノアはマチェットの刃を躱す。
「危ないのです」
そう言いながらも続く連撃を焦りの色すら見せず軽々避ける。
「遅いのです。よっと」
するする避けていたが、ここで、ノアが攻勢に出た。
男の振り下ろした右腕を掴み肘をはずす。
はずすと、何食わぬ顔でマチェットを奪い、相手の後ろを奪い、相手の持っている左手のマチェットを叩き落とす。
「修行が足りないのです」
「バカな……俺は四天王だぞ……」
「こういうことはジャパンでは奴は四天王の中で最弱と言うのです」
手ぶらになった相手の膝を蹴り、跪かせると、容赦無く首筋にマチェットを押し込む。
マチェットを軽く押すと、男も後ろへ倒れる。
そのまま平然とした顔で一息つき、懐からとあるものを取り出す。
タバコ………ではなくココアシガレットである。
ココアシガレットを口にくわえると一言。
「おい、壊し屋ノアはまだまだ現役なのです。死にたいやつはかかってくるのです」
壊し屋ノア……彼女のその名は本物である。
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