第38話 休日出勤なのです!

9月15日―P.M.3:00―フランス・コルマール郊外・サンクリート教会付近―


ノアの耳に拾われた音は段々と大きくなっている。

バラ……バラ………とした音はみるみる内にバララララ…!といった音に変わってきた。


「むっ!?」


遠くの空に見える謎の黒い物体を見た瞬間、ノアは急いで教会へと戻り、アイスを渡す。


「アンナ、アルク、ミーネ、絶対に私がいいと言うまで外に出てきちゃいけないのです!アンジェもティファナ先生もなのです!」


「え、ええ」


「わかったのです!?」


「わ、わかりました」


そうだけ言うと部屋に入り、キャリーケースをパカリと開ける。

キャリーケースを開けると底部をあさると、カチャリという小さな音が鳴った。

その音を聞いたノアはキャリーケースの隅に爪をかけると、底と思われたところはパカリと開き、更にスペースが生まれた。

所謂二重底である。

それもエメラルドが特注で作った今までにないタイプの仕組みのやつである。


底にはノーバ・コレットが一丁。各種アクセサリとマガジンも入ってる。

それと小型の無線機のイヤホンも入っている。


ノアはそのイヤホンを右耳に着け、コレットを取り、コンペンセイターを着け、マガジンを差し込み、コッキングレバーを引い薬室に弾を装填する。

そして腰に差し、まだスーツケースを弄る。


すると底だと思ったところはまだ底ではなかった。

なぜならまだ底があったからである。

まさかの三重底である。


三重目にはエメオリジナルが入っていた。

こっちにもロングマガジンとサプレッサー、コンペンセイターもついている。

特注の相手に食い込む爪の付けられたコンペンセイターが入ってる。


とりあえずコンペンセイターを付けてからキャリーケースに入っていたレッグホルスターを左足に着け、エメオリジナルを差す。


最後に入っていたコレットとエメオリジナルのマガジン数個ずつを同じくキャリーケースに入っていたウエストポーチに入れ、腰に着ける。


すべて終わったところでキャリーケースを閉じ、部屋を出る。


「来たのです………」


部屋を出たところで外でけたたましく鳴り響いていたバララララという音はついに孤児院の真上に付いたかのような大きさで聞こえた。

ノアはそれを確認すると、リビングへと向かい、何事かと警戒しているみんなに声をかける。


「ティファナ先生、アンジェちゃん、アンナ、アルク、ミーネ。お姉ちゃんはお仕事行ってくるのです。だから、元気でいるのですよ……」


「ええー!まだいるって言ってよねー!」


「むぅ」


「まぁまぁ、アンナ。ノアお姉ちゃんはみんなを守るお仕事をしているのよ。だから、急な仕事が入っても仕方ないのよ……でもね、ノアお姉ちゃんは強いからすぐ返ってくるわよ。ねぇ」


「なのです。じゃ、そろそろ行くのです」


そう言ってリビングから出ようとしたところでアンジェに呼び止められる。


「ねぇ、約束は守ってくださいね」


「わかってるのです。すぐ終わらして帰ってくるのです」


アンジェの頬に軽くキスしてからノアはリビングを出る。

真っ赤になったアンジェを置いて教会から出ようとしたところで教会の扉が開かれた。


「ノア・シャロームはいますか?」


「私なのです」


「ではこちらへ」


「わかったのです」


スーツの男性に連れられて外に出ると、外には平和な草原に似合わない黒塗りのセダン……じゃなくて軍用ヘリが一機ホバリングしていた。


「乗ってください」


「わかったのです」


そのままヘリに乗り込むと、ヘリは上昇して、教会を飛び去った



◇◆◇◆◇



ノアがヘリで去った後の教会……


「ねぇ、ノアねぇはどこに言ったの?」


「うーん……私にもわからないわね。でも、あの娘のことだもん。ケロッとして返ってくるわよ。だって、昔からあの娘は喧嘩しても頬に着いた血を笑って手で拭う娘だもの。だから、安心して待ってなさい。すぐ、帰ってくるから」


ティファナはどこか不安げな子どもたちを安心させている…

そして、アンジェは外に出ていた。


「頼むから生きて帰ってきてくださいよ。ノアちゃん」


遠くの空へと飛びたったヘリを見つめながら呟いた言葉はノアには届いてはいない。

だが、思いは伝わっているはずである………



◇◆◇◆◇



そんなアンジェが外に出ていた頃、ノアはヘリの中で作戦を聞いていた。


「すみません。ミス・シャローム。休日だと言うのに…」


その顔はどこか申し訳無さそうである。


「まぁ、それはいいのです。分かっていることですから。で、作戦の概要は?」


「まず、今回は基地制圧です。ターゲットはフランスのマフィア、ヴァーグナー・ファミリー


「おお、大物なのです」


「はい。そんな彼ですが、テロを企ててます」


「ほう、それは意外なのです。ヴァーグナー・ファミリーといえば穏健派だっとような気がするのです」


「ええ、ですが、それは先代まで。今となってはバリバリの武闘派です。その証拠に今夜、武装蜂起を起こしてリヨンを制圧する気です」


「今夜?そんな大事ならもっと前に気付けなかったのですか?」


「ええ、ぶっちゃけ、穏健派と思っていましたから、あまり調べてなかったんですよ。今回はたまたま水際で気付けたというところですかね」


「そうなのですか。わかったのです。どうせヴァーグナー・ファミリー相手じゃ警察も刃が立たないと思うのです」


「ええ、そのため、フランス軍も動員するつもりです。ですが、とりあえずの足止めとしてノアさんとティリアさんの二名に来てもらいます」


「わかったのです。ようは私等である程度戦力を削れということなのですね。で、あわよくば大将首を取ってこいと……」


ハァとため息をつく。


「ええ、そういうことです。だからこの際徹底的に潰そうかなと」


「ねぇ、こういうのってフランスの管轄じゃないのです?」


「はい、ですが…軍の出動にはめんどくさい手続きが必要です……攻められでもしない限りは……」


「なるほど……だから身軽な私達が出されるのですね……」


「ええ、そうです。だから増援も期待できませんよ。なにせ相手は巨大マフィアですから」


「ふむ、つまり、向かい先はリヨンなのですね」


「ええ、いちおうリヨンにはアデール・ファミリーというこれまた大型マフィアがいますが、協力は頼めません。後が怖いですから」


「ふむ、協力はしてほしいのですね」


「ええ、ですが、きついでしょう。上も多分通さないでしょうし」


「なら私に任せるのです」


というとスマホをポチポチ操作する。

そして電話をかける。


「もしもしなのです?」


『おおー姐さんっすか?お久しぶりっす!』


電話口からは元気な女性の声がした。


「おお、久しぶりなのです。ミラーシャ」


どうやらミラーシャという女性らしい。


『姐さんもお変わり無く元気そうで何よりっす!』


「なのです。ところで、今回は急用があるから早速本題に行くのです。ミラーシャはヴァーグナー・ファミリーの動きって知ってるのです?」


『ああー…最近きな臭くなってるっす』


「でしょ。で、今夜リヨンを制圧するつもり何だけど、知ってるのです?」


『ええ!?やつらそんな事考えてたんっすか!?許せませんねー!だってウチのシマにもリヨンの土地はあるんっすよ!』


「そ、で、私はそんな困ったさんをメッてしに行くわけなのです。でも、相手は一応マフィア。私一人でカチコミはつかれるのです。ということで数名手が欲しいのです」


『ふむ、姐さんの頼みとあらばこのミラーシャどこまでもついていくっすよー!』


「じゃ………


場所を言おうとしたところで言葉に詰まる。

そういやどこでヘリから降ろしてもらえるかわからないからである。


「で、どこで降りれるのです?」


「一応クロワルースで降ります。そっから車です」


「ということなのです」


『わっかりましたー!で、どれだけ連れてけばいいっすか!?姐さんの頼みならみんな連れて行くっすよー!』


「ふむ、なら精鋭を二人頼むのです」


『わっかりましたー!すぐ行くっす!』


そう言うと電話が切れた。

電話が切れたことを確認してポケットにスマホを仕舞ったノアに向けられていたのは懐疑的な視線であった。


「で、今の誰ですか?」


と、ノアを迎えに来たISISの職員が言う。


「ん?誰って友達なのです」


「で、どんな?」


「どんなって……学生時代の悪さ仲間なのです」


どんどん職員の目が鋭くなっている。


「で、その友人はどんな方なんです?今」


「今?今はマフィアのボスをしているのです。ほら、あのアデール・ファミリーの」


その言葉で職員さんの目は完全に疑いのものに変わった。


「なんでそんな人と繋がりがあるんですか?ISISでもアデール・ファミリーと繋がりのある人なんていませんよ」


「まぁ、この際だから言っておくのです。彼女、ミラーシャ・シャロームは学生時代の舎弟だったのです。だからその縁なのです」


「ま、まぁもう聞きませんが、後で報告の方、お願いしますよ」


「わかったのです」


そう言うとまた作戦内容の説明へと話は変わった。



◇◆◇◆◇



9月15日―P.M.10:30―フランス・リヨン・クロワルース―


すでに日は沈み、街には闇が満ちている。

街を照らすのは街灯と家の明かりのみである。


「ここからは車です。運転の方は?」


「こっちでやるのです」


「わかりました。では、ご武運を」


ヒョイッとヘリから飛び降り、近くのクーペ車に乗ろうとしたら声を掛けられた。


「姐さん!お久しぶりっす!」


明かりの無い丘の闇に紛れ一台の高級車が走ってくる。

ベンツである。

窓は開いており、そこから声がする。

その車はノアの近くで停まると、運転席から一人の男が出てきた。


その男は敬々しく後部座席のドアを開けると、中から銀髪ロングで高身長な女性が出てきた。


「お疲れ様です!ボス!」


「ああ」


白髪ロングの女性が降りると、今度は金髪のショートウルフの中性的な人が出てきた。


「姉御もお疲れ様です」


「おう、運転席に戻っていてくれ」


「わかりました」


運転手の男が車に戻ると、降りてきた二人は目の色を変えノアに抱きついてきた。


「姐さんはいつ見てもかわいいっすね」


「ほっぺぷにぷに」


「ちょ、やめるのです」


ノアの静止もものともせずうりうりとノアの体を撫で回している二人。

だからだろうか、ノアの目のハイライトがなくなっていたことに気づかなかったのは……


「おい、やめるのです」


「うりうりー」


「髪サラッサラ」


「最後通牒なのです。やめるのです」


その声も届かない二人。

すると、目にも見えない早業で髪を撫でていた金髪の方を絞め落とした。

するっと地面に倒れ込んだ金髪を見て、銀髪の方は縮み上がっていた。


「おい、ミラーシャ。たまには殴り合いも悪くないのです」


「ちょま、ちょまって下さい!姐さん。ゴメンナサイ。謝るっすから!」


顔を真っ青にして謝るミラーシャと呼ばれる女性。

それを見るとノアはハァとため息を着いた。


「よし、じゃあ時間も無いし、早速カチコミ行くよ」


「いやー…姐さんとのカチコミとか何年ぶりっすか?」


「多分七八年ぐらいだと思うのです。で、ミラーシャとクーナはちゃんと武器持ってるのです?」


「はい!ノーバのハンドホークとナイフ。由緒正しきカチコミスタイルっす!」


「よし。この際どうして軍用拳銃を持ってるかは置いておくのです。

じゃあ、早速行くのです」


「わっかりましたー!じゃあ乗って下さい」


「いや、たまには私が運転してやるのです」


「え?姐さんの身長で車運転できるんすか?」


「絞め落としてやるのです」


「ひぇぇぇ」


「よし、早速乗るのです」


クーペ車にしては少し珍しく……はないか……後部座席付きのクーペに乗り込む。

この時地面で倒れているクーナと呼ばれた金髪は蹴って起こされた。

それも頭を。

ちなみにクーナは女性である。


そうして、一台のクーペは闇へと走り出した。

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