第36話 解決なのです!

9月13日―A.M.5:10―フランス・コルマール市街・警察署―


「ねみぃのです」


日はまたぎ太陽は東から昇り始める朝五時。

ようやくノアは事情聴取から開放された。

まぁ、事件の聞き取りはすんなりと行ったが、身元確認に随分と手間取ったようである。

そして取り調べが終わったのは深夜の一時。

もう帰るのも面倒かったノアは警察署で一泊した次第である。


「さて、とりあえずバスでも待つのです」


教会に戻るためにバスを待とうとバス停に向かおうとしたら一台のミニバンがやってきた。

そのミニバンはノアの目の前で停まると運転席の窓が開いた。

運転席にはティファナがいた。


「ノアちゃん。帰るわよ」


「おお。ちょうどいいところに来たのです」


後部座席のドアを開けノアが乗るとミニバンは教会に向けて走っていった。

ちなみにこのミニバンはノアが買ったものだったりする。

数十分ほど走り、教会に着くとノアは有無を言わせずドナドナされ、第二次事情聴取が幕を開けた。



◇◆◇◆◇



「で、子どもたちを助けて連行されたと」


「なのです」


「警察が手がかり一つ見つけられなかったのにね………こうも簡単に捕まえられるとわね………」


ティファナが何やら苦笑いを浮かべている横でちびっこたちは大はしゃぎである。


「ノアねぇすごい!」


「かっけー」


「ふぉぉぉ!」


約一人語彙力がパァになっているが気にしなーい。


「あの、ノアちゃん。一体どうやって自分より一回り二回り大きい相手を倒したんですか?私はちょっと想像がつかないんですよ」


「え?まぁ、相手はトーシロだったし、飛びかかってきたところでナイフを落とし、そのまま地面とキスさせてやったのです」


「うへー………」


「ま、人間大抵のことはなんとかなるものなのです。さて、少し私は寝るのです。仕事柄徹夜は余裕なのですが、辛いものがあるのです。ということで寝るのです。一時間半の仮眠じゃ足りないのです」


ふぁぁと欠伸しながらノアが孤児院時代に使っていたベッドに倒れる。

それに続いてちびっこたちもモソモソとベッドに入り、ちびっこ四人で仲良く川の字で寝ている構図ができあがった。


そんな様子を見てティファナが


「ふふっ、こうしているとタダの少女にしか見えないわね。まさか裏社会の人間とは思わないでしょうね」


と呟いた。

それにアンジェも同じこと思ったのか「そうですね」と呟いた。

そんな感じにすぎる昼下がりであった。



◇◆◇◆◇



―ティリア side―



ノアがフランスに飛び立った後、ティリアも同じ様に故郷へ向け飛び立った。

ティリアものんびりファーストクラスで空港までやってくると、ビールで喉を潤し、電車を乗り継いで帰ってきたのは故郷、ローテンブルクの旧市街である。


「さて、着いたね〜」


キャリーケースをコロコロ転がしながらティリアが軍に入るまで育った生家を目指して歩く。


「はー……平和だね〜」


つい最近、大きな仕事があったからか平和を噛み締めながら歩くこと十数分。

ティリアは実家のホテルに着いた。


”ホテル・ハルヴァール”


なにげにここらへんじゃ一二を争うほどの売上を誇るホテルである。

そんなホテルがティリアの実家であった。


「グーテンターク。予約とってたハルヴァールよ」


「部屋は410号室となります」


「こっちは存在自体が怪しいなおい」


鍵を受け取ると人差し指で鍵をくるくるさせながらエレベータに乗り込み部屋へと向かう。

部屋につくと鍵をそこら辺にぽいっと投げ捨て、諜報員として最低限の盗聴器探査を済ませ、ベッドに腰掛ける。


「ふぅ……帰ってきたはいいが、暇だな。というかなんで私は客で来たんだ?」


「……まぁいいか」


「ルームサービスでも呼ぶか」


ということでティリアは内線を取って電話をかける。


『はいこちらルームサービスです』


「ビールと軽いツマミを今すぐ持ってきてくれ。ビールはシュバルツで頼む」


『わかりました。すぐお伺いします』


内線の受話器を戻し、ベッドに大の字で背中を預ける。

随分フカフカとして気持ちよさそうだ。


数分もすれば部屋のベルが鳴った。


「入ってくれ」


一言ティリアが声をかけるとガチャリと鍵が開けられワゴンが入ってくる。


「ただいまも無いとは……娘がこんなに冷たくなってお父さんは悲しいよ…」


「んじゃただいま」


「ああ、おかえり。ティリア」


そういった声はどことなく、安心感を覚えさせ、同時に懐かしさも覚える声だった。


「で、ビールは?」


「まぁ、それは親子の積もる話をしながらでいいだろう」


といって机にビール瓶とグラス、ツマミのプレッツェルが出された。

とりあえず二人してビールで喉を潤し、話し始めた。


「で、どうだ。最近イギリスに赴任したんだろ」


「なんとかやってるよ。癒やしもあるしね」


「ほう、人形でもあるのか?」


「うーん…ま、人形みたいに可愛いロリがいるのよ」


「そうか……まぁ、手は出すなよ」


「分かってるわよ」


ぶっちゃけ一線を越えてないだけでティリアはノアを襲っている。


「まぁ、やれてるならいいが、辛くなったら帰ってこいよ。前と比べて随分覚悟の決まった顔をしているが、同時に危うさも感じるからな」


どうやら父親にはすべてバレていたようだ。

娘がエライ組織にいることも筒抜けである。


「ま、しばらくは頑張るわよ」


「そうか、なら死なない程度に頑張れよ」


「うん」


再び口にビールを流し込む。

そして親子水入らず、話は続いた。

ティリアは仕事柄話せないことも多いが、それでもジュエルセクションの面々との普段の生活をまるで学校であったことを話す娘の様に父親に話す。


そんな生活が続くはずだった…………

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