第35話 逮捕なのです!
9月12日―P.M.6:10―フランス・コルマール市街―
ノアがアンジェらと分かれて少し歩いたころ。
ノアは路地裏に来ていた。
そこでピタッと止まりおもむろに声を出す。
「で、そろそろ出てきたらどうなのです?
「…………バレてたか……」
「随分と下手な尾行だったのです。なんです?最近の犯罪者は己の存在をアピールしなくちゃいけない決まりでもあるのです?」
「…ハッ、いい気になるのも今のうちだ。すぐにその余裕に満ちた顔を無様に歪ませてやる」
「ふむ、バッドエンドにはしたくないのです」
ここでクルリとノアが後ろを向く。
その顔には笑顔だった。
「では、このかわいい顔を歪ませれるわけにはいかないと言ったところなのですが、その子達は今は生きているのです?」
「ああ、生きているさ。だが、お前を連れ去ったらまとめて相手してやるさ……」
「ふむ、ロリショタハーレムを希望と………でも、ハーレムはハーレムでも男のみなのです。それも大人の」
「ハッ!すぐに泣かせてやる」
男はナイフを抜くと同時にノアに飛びかかる。
だが、ノアは気にもとめずひょいと後ろに跳んで避ける。
「この程度で私を捕まえれるとは………片腹大激痛なのです」
おっと海の底とノアの頭にウサミミみたいなヘアバンドが見えた。
「いい気になるなよ……クソガキが!」
更にナイフを持って二度三度と切りかかってくるが、ノアは軽く避ける。
そのままノアが下がっていくとついに壁に当たった。
「おっと」
「ハハハ、ついに壁だな……さて、大人しくしろ!」
これで終わりだとも言わんばかりに男が飛びかかってくる。
が、ノアは冷静に左手で男の右腕を掴み、ナイフの軌道を逸らし、空いている右手で男の顎に肘鉄を食らわせる。
すると男が怯んだため、ナイフを腕から落とさせ、そのまま腕と胸ぐらを掴み、足を掛けて投げる。
そのまま男の側頭部を蹴飛ばし、男を怯ませその隙に男の近くにあったナイフをとって馬乗りになる。
「いまからナイフの使い方というものを教えてやるのです」
ノアがナイフを持った左手を振り上げ男めがけて一気に振り下ろす。
だがナイフは男の耳を少しかすり、地面に突き刺さった。
「次は眼をやるのです」
そのままナイフを地面から抜くと、目の付近に刃を持って行く。
「さて、死にたいのなら何も言っちゃいけないのです。助かりたいなら子どもたちを監禁しているアジトを言うのです」
「誰が言うかよ………」
「仕方ないのです」
ノアが逆手に持ったナイフで男の目を斜めに切り上げる。
「あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”」
男は苦痛に満ちた声を上げるがノアは気にも止めない。
むしろうるさいと思っているのか露骨に嫌な顔をしている。
「うるさいのです。黙らなければ今度は目を抉り出すのです。安心するのです。まだ命は奪わないのです」
「あ”あ”ぁ”……」
「今言うならこれで終わってやるのです。でも言わない場合目を抉り出すのです。目を失っても言わないなら歯を一本一本抜いてやるのです。次は爪もやってやるのです。爪と歯はいいものです。だってそれぞれ二十枚もあるのですからね。合計四十枚、長いこと生きてられるのです。良かったのです」
「あ”あ”ぁぁ……」
「はよ言うのです」
ノアがダメ押しとばかりにナイフの刃を眼球のすれすれに突き立てる。
もはや目は笑っていない。
だが口は笑顔のままであった。
「わかった。わかった!言う!」
「はよ」
「運河沿いの赤の壁の三階建ての薬屋の地下だ!」
「そ。わかったのです」
というとノアはスマホで警察を呼ぶ。
「今巷を騒がせている小児誘拐の犯人を捕まえたのです。場所はコルマールの”パルファ”っていうクレープ屋の近くの路地なのです。子どもたちは運河沿いの赤の壁の三階建ての薬屋の地下にいるらしいのです」
言うことだけ言うとノアを乗せて連れ去る予定で持ってこられた男の車に乗り、ポーチをについている防犯ブザーを取り出し半分に分け、シガーソケットに差し込む。
そしてスマホを取り出しとあるアプリを立ち上げればスマホの画面に車の前方の映像と、操作ボタンが現れた。
それを動かすと、同時に車も夜の闇へと動き出した。
「ふむふむ。実戦は初めてなのですが使いやすいのです」
と、スライドパットで動かしハンドルを操作し、ボタンでアクセルを操作しているノアはご満悦な様子。
そのまま数分も走れば目的の薬屋に着いた。
「ここなのです」
一応敵がいることも考え、SPPを抜いて構えながら中へ入る。
鍵はサプレッサーを付けたSPPで壊した。
とりあえず一回を探索したが、地下に繋がる階段はなかったが、怪しげなハッチを見つけたため、銃で鍵を壊し、ハッチを開ける。
「おお、ビンゴなのです」
中には石造りの地下へ続く階段があった。
ここで一度親指で薬室内に弾が入っていることを確認する。
こういう時にローデッド・チャンバー・インジケーターは役に立つ。
わざわざスライドを引いて確認しなくて済むからである。
そして、ISISやフランス海軍で培った音を立てない歩き方で進む。
そして進むこと少し。
部屋に行き着いた。
ノアがそーっとドアノブを握ると空けようとするが鍵がかかっていたため、ドアノブにも銃弾を撃ち込む。
鍵が壊れた扉を押して部屋に入る。
そのまま流れるようにクリアリングをする。
すると物音がしたため音のした方に銃を向ける。
薄暗い部屋の中でぼんやりと見えたのは子どもたちだった。
それを見るとノアが自分と子どもたちを仕切る鉄格子越しに声をかける。
「君たちはもしかしなくても誘拐された感じなのです?」
しかし返ってくるのは泣き声のみである。
だが、これが応えだろう。
「なるほどなるほど。今警察も呼んだし、ここから出してあげるのです」
今度銃で開けた時に流れ弾が当たらないように頭に付けたヘアピンでピッキングして鍵を開ける。
「ほら、一人ずつ出るのです」
ノアが手をクイクイと動かすと子どもたちも恐る恐る出てくる。
だが、五人のうち四人は出たが最後の一人の子は出てこない。
それを不審に思ったノアがその子をよく見てみるとその子は足を怪我していた。
「なるほど。歩けないのですね。では失礼して」
自分より大きな男の子だったがノアは苦も無く担ぐと扉をくぐる。
その際男の子が壁にぶつからないよう気をつける。
俗に言うファイヤーマンズキャリー※1で担いだため特に足と腕がぶつからないように気をつける。
「待つのです。お姉さんが先行くからいいって言うまで着いてきちゃいけないのです」
この際お姉ちゃん?というツッコミは気にしてはいけない。
そして注意深く進んでようやく、ハッチまでたどり着いた。
「よし、来て」
全員が階段まで来たところでもう一度待つ指示をし、ノアは一階のクリアリングに当たる。
もちろんこの時男の子は背負っていない。
カチャリ
何処かで物音がした。
場所はおそらくハッチの逆側で子どもたちに何かあったわけでは無さそうだ。
ノアもここでもう一度気を引き締め、音のあった方へ向かう。
そして壁に張り付いて様子を伺う。
「む?」
どうやらなにか気付いた様子。
すると、銃を仕舞って壁から出ていった。
「警察なのです?」
警察を見つけたようだった。
「あ、ああ。お嬢ちゃんはここにいたのか?」
「ん?私はただ。私を狙った男を〆てここまで来ただけなのです。子どもたちはあっちに進んだところにあるハッチにいるのです」
「と、ということはあの男の惨状はお嬢ちゃんが一人でやったのか…?」
「なのです」
「お、おかしいだろ。目の表面を薄く切るなんて芸当こんな小さな子には無理だろ!」
「むぅ…私二十歳越えてるのです」
「おいおい………嘘だよな………」
「ホントなのです。というか警察はあなた達だけなのです?」
「いや、そろそろ本部から応援が来るはずだが……」
というと同時にドタバタと警官が入ってきた。
「ふむ、では……来るのです!」
少し声を張り上げて呼ぶと、奥からぞろぞろと子供が出てきた。
怪我をした子はノアが迎えに行った。
「おお、みんないなくなっていた子だ。おい、この子らはどこにいたんだ?」
「地下に押し込められていたのです。ということで。私はそろそろ帰るのです」
「あ、ああ……じゃない!あんたも来てくれ聞きたいことがいっぱいある」
「めんどくさいのです」
ということでノアもパトカーに押し込められ警察署へと連れてかれた。
子どもたちは救急車で病院に運ばれていった。
そして警察署につくなりライセンスのない銃の所持やらなんやらでノアは取り調べを受け、そのさい身分の説明等で一悶着あったためすべて終わったのは深夜となった頃である。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※1:ファイヤーマンズキャリー
…人を担ぎ上げて運ぶための技術で、格闘技(特にプロレス)の技でもある。
うつ伏せまたは正対した相手の腋の下から自分の首を差し入れた後、
肩の上に相手を担ぎ上げて運ぶため、軽く人を持ち上げられ動きやすい。
名前からわかるように、火災現場で消防士が怪我人を運び出すために
使われることからこう呼ばれる。
よんごーです。
”海の底”とか”ウサミミみたいなヘアバンド”とか”片原大激痛”の元ネタはわかりました?
元ネタは『咲-saki-』と呼ばれる漫画から来ております。
ちなみによんごーは咲では宮永照が一番好きです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます