第33話 約束なのです!

9月7日―P.M.10:30―フランス・コルマール郊外・サンクリート教会―


ちびっこが寝静まる頃。

大人組……まぁ、一応成人してるからセーフ……

まぁ、改めてノア、アンジェ、ティファナの三人はリビングで軽くお酒を嗜んでいた。


「ふぅ……」


「いやー……美味しいですね。このウイスキー」


「ですねー…」


三人が飲んでいるのはノアが買ってきたウイスキー。

銘柄はマッカランである。

本場イギリスで買ったスコッチウイスキーである。

しばらく楽しんでいるとティファナがさっきまでの酒で綻ばせた頬をキリッとしたものに戻し、真剣な目つきで問いかける。


「で、ノアは一体今は何をしているのかい?」


「ん?今も軍人なのです」


「うんん、違う。昔から覚悟の決まった眼だったけど、今は何十人も殺してきた人の眼よ。私にはわかる。だってノアちゃんの親ですもの」


「むむむ………違うと言いたいのですがね………」


「でしょ。で、今はどこにいるのかしら?」


「え!?フランス軍じゃないんですか?」


ふぅ…と一つ息を吐いて覚悟を決めノアが言う。


「言ってもいいんですが、命賭ける覚悟はあるのです?」


「随分暗部にいるのね。まぁ、私はあなたの母親。いつもでもあなたの味方よ。だから覚悟はできてるわ」


「わ、私もノアちゃんの幼馴染として聞く覚悟ぐらいはあるのです……!」


「そう……では言うのです」


ノア自身も覚悟を決め一言。


「ISIS…国際機密情報局という組織は知ってるのです?」


「知らないですね……ティファナ先生はどうですか?」


「私も聞いたこと無いわね。対外治安総局DGSE国内治安総局DGSI、フレンシュロンなら耳にしたことあるけどね…」


「まぁ、ISIS自体表立って動く組織じゃないのですから、知らないのも無理はないのです。で、ISISというのは要は国連傘下の諜報組織、つまり国際版MI6みたいなものですね」


まぁ、間違ってはない。


「ふーん……じゃあノアはそのISISとやらのどの部署にいるのかしら?本部で会議しているのと現場でスパイしているのとでは危険度は断然違うわよ」


「まぁ、後者なのです……」


気まずそうに答える。

その言葉を聞くとティファナはため息を着いて一言。


「まぁ、だろうとは思ったわよ。ちなみに辞める気はあるのかしら?」


「ないのです。約束があるのです」


とキリッとした表情で答えるノア。


「ありゃ。これは私でもどうにもできないわね……でも、死ぬんじゃないわy「ねぇ!」…どしたの?」


ティファナの発言に割り込んできたのはアンジェ。

続けざまに言葉を繋げる。


「なんで二人共割り切ってるんですか!?死ぬかもしれないんですよ!?それにスパイって捕まったら助けも来ないんじゃないんですか!?私は嫌ですよ!幼馴染が遺体も見つからず死ぬのは!どうせロクな死に方もできないんですよ!私はそっちには疎いのでよくわかりませんが、幼馴染が国と国の諍いで巻き添え食らって死ぬなんてゴメンですよ!!だから、だから………お金はいいですから…帰ってきてくださいよぉ………」


涙ながらに紡いだ言葉は至極当然の言葉だった。

スパイとして生きる以上、死とは隣り合わせ、その死も畳やベッドの上で穏やかに……何ていうのは贅沢な願いで、大体は銃か、薬か、刃か、鈍器か、爆発か、楽には逝けないだろう。


「あのね。アンジェちゃん。私はISISに行ってよかったと思うのです」


ノアがそっと、そっと声をかける。


「なんで、なんでよぉ…」


「実際現場だと死は二歩先にはあるものなのです。でも、私は恩人の思いに応えられない薄情者にはなりたくなのです……。こんなチビスケに背中を預けてもらえる、私を一人の兵士、スパイとして見てくれたあの人に………。こっちで海軍してた頃にはなかった期待という感情をぶつけてくれたあの人に………。だから、私はなんと言われようが辞める気はないのです………」


「嫌です………嫌ですよぉ………絶対離さないんですから………!」


そう言ってアンジェはノアを強く抱きしめる。

腕に、ただ、どこにも行ってほしくないという感情をまとわして…


「でも、死ぬつもりは毛頭ないのです。泥すすっても生き延びるのです。そのために死すら可愛く見える訓練を一年間耐え忍んできたのです。絶対、絶対、ここに生きてまた帰ってくるのです。これは約束なのです。アンジェちゃんと私の一生を賭けた約束なのです。だから、アンジェちゃんも生きてここで待ってて貰えるのです?」


「………待ってるよ。絶対ここで待ってますよ……だから、だから、生きて帰ってくるって約束してくださいよ……」


「うん、指切りするのです……」


小指と小指を交わして…


「「ゆーびー切りげんまんっ!うーそついたら針千本のーますっ!ゆーび切ったっ!」」


定番の掛け声と共に指を切った二人。

そして誰にいうでも無くもう一度互いの存在を確かめ合うよう抱き合った。


「ふふふ…私もいるんだよ。ね、ノア、お母さんに娘の遺骨を拾わせるような真似はさせないでね。約束よ」


ティファナ二人を包み込むように抱く。


「わかってるのです……」


もう一度三人で抱き合った。

これで、改めてノアの決意は固まった。

絶対に死なないと。


ひとしきり抱き合うとまた三人でショットグラスを持ちウイスキーを飲み始めた。

三人とも何処か吹っ切れた感じがした……


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