第31話 旅立つのです!

9月7日―A.M.7:50―イギリス・ヒースロー空港―


コロコロと白のボディに茶のベルトを巻いたキャリーケースを転がしながら一人の少女がターミナル3をめざしてとことこ歩いている。

格好は白のブラウスに茶色の軽くフリルのついたプリーツスカート、茶に色のラインが入った薄めのジャケットを羽織っている。

肩からはクマのショルダーバッグを掛けている。


ココまで言えば誰かわかるだろう。ダイヤである。


ちなみに彼女の引いているキャリーケースは赤外線、紫外線などの光線を一切通さない、特注品で、そこに銃を仕舞っていたりする。


「さて、離陸までまだ結構あるのです。どっかで暇を潰すのです」


ということで近場のカフェに入ってコーヒーを頼み軽く時間を潰す。

しばらくカフェで時間を潰した後荷物検査を済ませ、飛行機に乗り込む。


席はお金はあるためファーストクラスを取ったダイヤは半個室のゆったりとしたシートに腰掛け足を伸ばす。

ふっかふかのクッションがなんとも気持ちいい。

ファーストクラスのシートに腰掛けてぐでーっとした後カバンを降ろす。


「ふぃー……こっちのシートは気持ちいいのです。この前イタリアに言ったときの航空会社よりこっちの方が気持ちいいのです。これと比べりゃ天と地ほどの差があるのです……これからはこっちにするのです……」


ぐでーっと体をシートに預けだらけていると、スマホが鳴った。


「ん?」


メールに一件通知が来ていた。


「……は?」


送り主はルビー。

内容はお土産についてで、用は酒を買ってきてほしいらしい。


「まぁ、適当なワインでも見繕っておくのです」


”ワイン買ってくるのです”

とだけ返し、スマホを機内モードにする。


「ふぅ……そろそろテイクオフなのです」


呟きながら脇の備え付けのサイドテーブルにスマホを置き、そこにイヤホンを付ける。

イヤホンを付けたスマホを慣れた手付きで操作し、音楽アプリから音楽を掛ける。


そのまま音楽を聞きながらシートに体を預けフライトを待った。



◇◆◇◆◇



あのあとすぐ飛行機は飛び立った。

その時の機長からのアナウンスではレバノン料理を食べたと言っていたため、早急に真水が欲しくなった。

機内販売で売ってはないだろうか……


「ふぅ……パイロットがレバノン料理を食べるのは犯罪だと定めるべきなのです。あんなの墜落します言ってるようなものなのです」


ダイヤもこの様子。

まぁ、一種のジョークだからあんまり気にはしてない様子。


そのためしばらくしたらカバンからチョコレートとコーヒーを取り出す。


「あむあむ……うん、このメ◯ティーキ◯スってやつ美味しいのです。少し高かったけど、買った甲斐があったのです」


コーヒーを飲んだ際の苦みを輸入雑貨屋で買ったメ◯ティーキ◯スで際立たせる。

同時にチョコ特有の甘みも口に広がる。


「ふぅ……落ち着くのです」


シートでのんびりだらけているダイヤ。

その元へ一人の女性がやってきた。


「機内販売です。なにかご入用ですか?」


「ふむ……ではカフェオレとチョコクランチをいただくのです」


「わかりました。では四ポンドです」


「はいなのです」


チップも入れて八ポンドを渡す。


「ありがとうございます。どうぞ」


「ありがとなのです」


チョコクランチが入った袋とカフェオレを渡される。

ダイヤが受け取ったのを確認するとCAの女性が立ち去る。

ダイヤもCAが去ったことを確認するとチョコクランチの封を切り、一口食べる。


コーンフレークのサクサクと気持ちいい音が口の中で鳴る。

カフェオレはミルク多めでいつも飲んでるモノより少し甘い。


そんな感じにチョコレートを頬張り、コーヒーかカフェオレを飲む。

そして耳で音楽を聞きながらだらける。


まさに至高の時であった。

が、そんな時間も長くは続かない。


着いてしまったのだ、フランスに。



◇◆◇◆◇



9月7日―A.M.11:30―フランス、シャルル・ド・ゴール国際空港―


「うーんっ……!心地よかったのです…」


今回は満足した様子で空港ロビーに出てくるダイヤ。

ルンルン気分である。


「ふぅ……とりあえず鉄道が出るまでまだ二時間ほどあるのです。とりあえずどっかで何か食べるのです」


そうと決まれば早速タクシーを呼んで何処かへと走っていった。

タクシーが向かった先は個人経営のステーキ屋。

ダイヤの馴染みの店の一つである。


「ボンジュールなのです」


「おお、珍しい客が来たな。ざっと一年ぶりぐらいか?」


「転勤であんまり来れなかったのです」


「ほー…一体どこに移ったんだ?」


「イギリスなのです」


「海を渡ったってことか。で、こっちへは時期外れの帰省か?」


「ま、そんなところなのです。だから数日すればまたイギリスなのです」


「そうか。まぁ、ココ数日は仕事忘れて楽しめよ」


「そうするのです」


「ああ、そうしてくれ。で、注文はどうする?」


「リブアイを八オンス、焼き方はミディアムレア、付け合せにマッシュポテト、それとスープで頼む………やっぱ食後にグラッパも付けてほしいのです。


「分かった。テキトーに座っててくれ」


男に言われダイヤはカウンターの一席に腰掛ける。

ちなみに今ダイヤに話しかけていたステーキ屋の店主はシモンと言って元警察官で今はステーキ屋の店主という経歴がある。

そのためガタイがとても良く筋骨隆々がよく似合う。


っと、注文の品が来たようである。


「ほらよ。リブアイの八オンス、ミディアムレアとセットのスープだ」


「ありがとなのです」


フォークとナイフを持つと肉汁があふれるステーキをいただく。

うん、肉だ。スパイスの効いたスパイシーな味付けの肉だ。おいしい。

そのままパクパクと食べ進めて気づけば皿は空っぽになった。


「食後のグラッパだ」


「ありがとなのです」


グラッパが出される。

小さなワイングラスに入れられた少量のグラッパをゆっくりと飲み、胃をスッキリとさせる。


「ふぅ……ごちそうさまなのです」


「おう、また来いよ」


代金を払い店を出る。雑談も弾み1時間ほどステーキ屋で潰したところでそろそろ駅へと向かう。

ココからは電車の為、ダイヤはタクシーに乗り込み、パリ東駅へと向かう。


ちなみに電車では二時間半ほどかかるところに向かうのだが、察しの良い読者は目的地がピンと来ただろう。


さて、駅についた頃には電車が出るまで二十分ほどあった。

そのため、売店でお菓子とカフェオレを買っておく。


「よし、そろそろなのです」


色々済ませホームで待つこと少し。

目当ての電車が来たため乗り込む。


「おお、シートも気持ちいいのです」


少しお値段の張る電車のためシートが柔らかい。

これなら長時間座っていても体が痛くならないだろう。


そんな電車はダイヤを乗せ、定刻通りにパリ東駅を出て、東へと走っていった。



◇◆◇◆◇



『まもなくコルマール、コルマール』


そんなアナウンスが聞こえた頃にはダイヤは降りる準備を済ませてた。

といってもキャリーケースぐらいだが、荷物は。


「ふぅ、やっと戻ってきたのです」


そう、ダイヤの目的地はここ、コルマール。

かの某D社の『美◯と野◯』や、ジ◯リの『ハ◯ルの動◯城』の街のモデルのコルマールである。


「まぁ、とりあえずバスで中心部へと向かうのです」


ということでバスへ乗り込み、街の中心部へと向かい、そこからタクシーで街から離れた位置にある丘に建っている教会へと向かう。


「ありがとなのです」


タクシードライバーに礼を言ってからダイヤがタクシーを降りると、目の前には幼少期を過ごした思い出のある教会が広がっていた。


「ふぅ、ここまで来てようやく帰ってきたのです」


誰にも聞こえない声で教会へと向かって少し歩く…

そして、住み慣れた教会の大きめの扉に手を掛けた。

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