第23話 別れなのです!

8月24日―A.M.0:10―パニグア・イスラ島北方海域―


ボートで海を駆けること三分ほど。

二人の前に一機の多目的ヘリが降りてきた。


UN-60L、ジュエルセクション所有のヘリである。

ちなみに愛称はノワールファルコンである。


ヘリは水面ギリギリでホバリングし、ドアが開く。


「乗れ!」


中からサファイアの大声がし、手が差し伸ばされる。

ダイヤとルビーもそれに応え、手を掴み合ってヘリに乗る。


「ふいー…死ぬかと思った」


「「「お疲れ様(です)(ですぅ〜)」」」


「ありがとなのです」


ダイヤとルビーがヘリ内の椅子に座ると、トパーズが、


「お二人共、まだ任務は終わってません。クルーガー氏の捕縛が残ってます」


と、言った。

この言葉に二人は驚く……ことはなく、まぁ、当たり前かという顔をしていた。


「まぁ、あの手の奴はだいたい自分だけ脱出してるもんよ」


「で、今はどこにいるのです?」


「さすがに驚きませんか。今彼はイスラ島の南方を南に向かってクルーザーで逃亡しており、おそらく島をいくつか経由し、目的地は南米でしょう」


「なるほど、だから今エメはヘリを飛ばしているわけだね」


「ああ、そうだ。で、一応カスタムの済んでいるAMP45とNB-15だ。コレで空中から牽制と操行部の破壊。その後ボートに乗り込み、捕縛、だが………無理そうなら殺しても構わない」


「わかったのです」


「そして、マガジンだ」


「ありがとなのです!」


「今一番欲しいやつ!」


二人共マガジンを受け取り、エメオリジナルに差し込みチェンバーに弾薬を送る。

その後も銃の微調整を済ませ、いつでも出撃できるよう準備しておく。


その数分後ついにエメから


「レーダーがクルーザーを捉えたのですよぉ〜!距離およそ二マイル!」


その言葉が放たれた。


「最後の締めだ!頼んだぞ!」


「頑張ってください!」


「「了解!!」」


ルビーがドアをスライドさせ、外を見渡す。

その間もぐんぐんヘリは飛び、ついに肉眼でボートが捉えられた。


「敵との距離およそ0.5マイル!接敵します!」


ルビーが銃を構える。

それに続いてダイヤも構える。

そして引き金は引かれた。

ボートに目掛けて45ACP弾と5.56mm NATO弾の雨が降り注がれる。

ルビーは時々アンダーバレルのグレポンを発射し、クルーザーの進路に干渉する。


「私も援護する!」


サファイアがダイヤが前の任務で使っていたグレポンの大きい版を持って立ち上がる。

構えるとすかさず引き金を引いてクルーザーにかすらせる程度に榴弾を放つ。


そういったことを繰り返すこと十数分。

勢いはジュエルセクションの側に出てきて、向こうは押され気味である。

このままでは向こうもジリ貧だと判断したのか、船頭に備え作られている何かをこっちに向けてきた。

なにかわからない以上ヘリは素早く退避するが、その何かは何かを発射した。


「ッ!」


ダイヤが素早く身を捻るが、放たれた何かはダイヤの持っていたAMP45を軽々と貫いた。

それも銃口付近に刺さり、抜けたのはストックらへんであることからその何かは銃を縦に貫いたことになる。


「ワイヤーなのです!?」


「あれはワイヤーウィンチか!」


すかさずルビーがそのウィンチ目掛けて榴弾を撃つ。

その榴弾はきれいにウィンチを破壊したが、その影響でワイヤーも引っ張られ、それにはAMP45も持ってかれ、AMP45は海へきれいに落ちた。


「不味いのです!」


「銃が持ってかれた!」


「ありゃ拾いにも行けないな……」


ダイヤは腰からエメオリジナルを抜いて撃つが、効果は薄い。

しかし、嬉しいことにサファイアが撃った榴弾が上手いこと当たったのかクルーザーの操行が突如止まった。


「こりゃいかれたか?」


「だね」


「なのです」


「よし、ハシゴを垂らすからそれで乗り込んでくれ。援護は私がする」


「わかった!」


「なのです!」


ヘリから垂らされた縄ハシゴをスルルっと降りる二人。

もちろんそんな姿は的も良いところだが、ルビーのNB-15を構えているサファイアの援護で比較的安全降りれる。


「よっと!」


「なの!」


ハシゴから飛び降り、なんとかクルーザーに飛び降りた二人。

クルーザーに乗り込んでも一息もつかず、エメオリジナルを構え眼に入った兵を撃ち抜いていく。

サプレッサーの変わりにコンペンセイター※1が付けられた銃を利き手に、ナイフを逆の手に逆手に持ってすすむ。

遠くのには弾を最低限二発撃ち込み、近くのゼリーには首にザクザクとナイフを刺す。

それを続けると黒のスーツはいつの間にか赤褐色の血の色に染められいつもの可愛い姿はなりを潜め、ただ血に飢えた暗殺者の風貌が漂う。


そんな鬼気迫る戦闘を続け、ようやく、クルーガーの元へとたどり着いた。


「やぁ、フィリック・クルーガー。来てもらおうか」


「両手を頭の上に乗せるのです。ついでに寝るのです」


クルーガーは大人しく手を頭の後ろの乗せた。

乗せると口を開いた。


「まさかガキ二人に追い詰められるとはな……参ったよ……」


ハァ…とため息をつきながら話す。

すると…


「…なら」


突然ダイヤがクルーガーの口に手を突っ込み奥歯を引っこ抜いた。


「これはこっちで貰っとくのです」


「チッ」


「おおー青酸カリカプセル。スパイの必需品だね」


「なのです」


「ほら、あんた以外は全滅なのです。大人しく付いて来るのです」


「ハハハハハ!青酸カリなんぞ噛むつもりは毛頭なかったわ!本命はこっちだくたばれ!」


クルーガーが机の上のリモコンを取ってボタンを押す。

すると、部屋に鎮座していた大型のクローゼットが開き、そこから例のドローンが出てきた。

ドローンはクローゼット以外も部屋の外からも出てきた。


「死に晒せ!」


「甘い」


といってルビーが何かを転がす。

その転がされたものはバンという音と共に何かを撒き散らした。


するとドローンはみんな挙動不審となり、

「エラーエラー。エマージェンシー、感覚器官がジャミング※2されています。エラーエラー」

と機械音声を吐いてその場で微動だにしなくなった。


「私等が対策していないわけ無いでしょ」


「なのです。こんなものチャフの前じゃ無力なのです」


そう。

あの時ルビーが転がしたのはチャフグレネード。

電子兵器を一瞬でダメにするやばい兵器。

そんなものを個人が持てるようにグレネード状にしたものである。

それにより、ドローンのレーダー等を潰し、行動を止める。

かくして、クルーガーの奥の手を潰した二人はクルーガーを気絶させ、ルビーが担いでクルーザーの後方部に向かう。

後方部に着いたことを確認すると、クルーザーの周りを飛んでいたヘリがゆっくりと降下し、水面間近でホバリングする。

ヘリのドアがサファイアによって開けられると、まずクルーガーを乗せ、そしてダイヤとルビーも飛び乗る。


「お疲れ様。これで全部済んだ」


「ええ、ミッションコンプリートです」


「お疲れさまですよぉ〜」


「そっちもお疲れ様なのです」


「おつおつ〜」


全員ヘリに乗ったところでヘリは再び空へと消える。

まだ日は出てはいないが、そろそろ出そうな明るい闇の空へと消えた。


ヘリを飛び立つと同時にヘリの中ではダイヤがクルーガーの腕に手錠を掛け、頭に黒い袋を被せる。

もちろん体はシートベルトで座席に固定してある。


「ふぅ、疲れたのです」


「ああ、お疲れ様。銃はこっちで新しいものを用意するよ」


「ありがとなのです。でも、AMP45は気に入っていたから悔しいのです」


「だな」


少し暗いムードが漂うが………


「まぁ、帰ったら慰めてやるさ、ベッドでな」


「ハイストップー。ロリコンはダイヤちゃんから離れて、ヘリから飛び降りてくださいー」


「そうですよぉ〜。実際に手を出して捕まるのなら、今のうちに自死を選ぶことをおすすめしますよ〜。てかしてくださいぃ〜」


「ハハハ。戦争じゃゴラァ!」


なんやかんやで賑やかなムードでヘリはヘリパットまで飛んでいった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



※1:コンペンセイター

 …マズルブレーキとも言う。

  銃の発射ガスを上や左右に集中して放出し、反動を軽減するマズルアクセサリ。

※2:ジャミング

 …電波妨害装置によって引き起こされるレーダー波の妨害のこと。

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