第20話 潜入なのです!その2
8月23日―P.M.7:50―パニグア・イスラ島北―
「アレかな?」
「多分アレなのです」
「見たとこバンカー※1って感じだよね」
「なのです」
「でも結構廃れた感あるよね」
「なのです。とりあえず、昔の資料から地図が手に入る可能性に賭けてみるのです」
いま二人がいるのは島の北方。
前話で何かあるかもと言われてたところである。
さて、そんな北方で二人が見たのは廃れたバンカーである。
こういった廃れたものがある基地はだいたい、その元あるモノをベースにして基地を作るのは定石である。
とまぁつまり、ホテルの地下になにかあるなら、このバンカーを基礎にできているのかもしれないから、このバンカーの設計図があれば地下のマップに代用できるかもしれないということである。
ということで無線。
「ダイヤなのです。調べてほしい事があるのです」
『ん?なんだ?』
「イスラ島にバンカーがあったのです。で、そのバンカーの地図があるかどうか調べてほしいのです。そしてあったら送って欲しいのです。時代的にはWW2かそれより後だと思うのです」
『分かった。すぐ調べる。…トパーズ!』
一度ここで無線が切れる。
その横でルビーはずっと双眼鏡を覗いてバンカーを観察している。
無線が切れてから少しすると、ルビーは双眼鏡を仕舞ってエメオリジナルを弄る。
「あ、そういや、さっきの男共に死体漁りするの忘れてた」
「私が一応やっておいたのです」
「ありがとね」
「いやー…遺体隠したらなんか満足しちゃったわ」
それでいいのか元特殊部隊員。
「で、なんか目ぼしいものあった?」
「一応ガバ※2があったのです」
「ということは……」
「
「はーぁ、つっかえないなー…あの男共」
「もう一本ぐらいあっても良かったのです。それと、グレネードが三つほど。私は一個でいいのです」
「お、ありがとね」
ダイヤがポーチからグレネードを二つと七発入りのマガジンが差し込まれたガバを一丁出す。
「あっ、ガバはダイヤに上げる。もともと私は十二発入りのマガジンだから、ダイヤよりは余裕あるし」
「いいのです?」
「いいよ。おねーさんからの贈り物だよ〜!」
「なら遠慮なくなのです」
ルビーは出されたグレネードを二個ポーチに仕舞い、ダイヤは拾ったガバを自分のポーチに戻す。
そしてまた双眼鏡を覗く作業に戻ると、すぐ無線が入った。
「はいこちらダイヤなのです」
『ダイヤか、サファイアだ。出たぞ!ビンゴだ!』
「ホントなのです!?」
『ああ、すぐそっちに送るが、今はどうかわからんぞ。でな、見たらわかるが結構複雑だぞ。なにせソ連製だ。厄介極まりないぞ』
「ソ連製……ということは………」
『ああ、中米紛争時※3のものだ。ニカラグア政府軍が
「で、ここは落ちたの?」
『落ちる一歩寸前で紛争は終了。だがな、シュミレーションでは落とせたと出た』
「ふーん…なら行けるね」
『ああ、ダイヤもルビーもプロだ。トーシロが集まった民兵でも行けたんだ。なら二人なら容易いだろう』
「わかったのです。なら私はこの戦いが終わったらチョコミントと結婚するのです。
あ、でも私はこんなところにはいられないのです。先行くのです。大丈夫なのです、秘密兵器があるのです。おっと、行く前に、海の様子だけ確認してくるのです」
『一気に不安になったぞ』
「まぁ、がんばるのです」
『ああ、引き続き頼む』
無線が切れた。
それと同時に潜入用の特製のスマホにデータが送られた。
内容はもちろんバンカーの中身である。
バンカーの中は複雑怪奇という言葉が似合うほどに入り組んでおり、方向音痴でなくとも迷子になるレベルの入り組み様である。
「ふむ、あの丘の上にハッチがあればそこから潜入可能なのです」
「だね。とりあえず様子見に行こっか」
「なのです」
二人共スッと立ち上がり、近くの丘目掛けて中腰で進む。
もちろん手にはサプレッサーの付けられたエメオリジナルを持って。
丘にはものの数分で着いた。
一応警戒しながら進んだが、人の気配は一切感じられない。
「ねぇ、これわんちゃんハッチなくなってない?」
「同じこと思ってるのです」
思わずボヤきながら進むと、ダイヤが何か見つけた様子。
「ねぇルビーさん。これがハッチというものじゃないのです?」
「ん?どこどこ?」
「ほら」
ダイヤが少し落ち葉や草木をどかしてやると錆びついたハッチがあった。
「おお〜……この錆具合から見てわんちゃん向こうもこのハッチに気付いてないんじゃない?」
「なのです。とりあえず中を少し見てみるのです」
こういう時ダイヤみたいなちっこいやつは便利なのである。
顔もちっこいため、開けるのも最小限で済む。
ダイヤが覗くため、ハッチの取っ手に手を掛けたが………
「あー…鍵かかってるのです」
「よし任せて」
ルビーが鍵穴らしき場所に一発弾丸を撃ち込む。
パチィ!と何かが弾けたような音がしたが、それ以上にでかい銃声は響いていない。
キィィ…と小さな音と共に錆びついたハッチが開かれた。
ちょうどダイヤが覗けるぐらい開くと、銃口をねじ込み夜目を効かせ中を見る。
まぁ、中ははしごがかかっている塔なわけだが……
「誰もいないのです。とりま降りてみるのです」
スルッとはしごを滑り降り、ストンと着地。軽くクリアリングして、安全を確かめる。
「オッケーなのです」
「では私も」
ルビーも降りる。
こっちはなんかカッコつけて飛び降りた。
でも音を立てないのはすごい。
ルビーが降り終えると、ダイヤが妙に深刻そうな顔で…
「ねぇ、地図にあった通路が壁になってるのです」
「おう……でも材質的には塞がれた感ないよね」
「なのです。おそらくバンカー時代のものなのです」
「ということは……」
ルビーが壁の至る頃に手をかざす。
すると壁の一部がゴゴッと奥へ凹んだ。
すると本来通路だっとところにある壁の一部…およそ普通の扉より一回りほど大きいものが地面に沈み込んだ。
「はい、ごまだれー」
「おお、開いたのです。にしてもなんでわかったのです?」
「ん?前ね、よく似たことがあった時、こんな感じで開いたのよ」
「ほへー」
「ま、とりあえず。進もっか」
「なのです」
銃を持って通路を進む…
が、その前に、ルビーは壁を抜けた先の通路でも壁をペタペタしていた。
するとこっちでも壁の一部が凹み、今度は開いていた壁の一部が地面から迫り上がり、壁は何事もなかったかのように塞がれた。
「なんかあったらココに逃げよっか。向こうも気付いてないようだし」
「なのです」
こうして二人はバンカーの中へ中へと進んでいった。
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※1:バンカー
…
防御施設の1種で、軍用機などの装備・物資や人員を、敵の攻撃から守るために
コンクリートなどで造られた横穴状の施設。
この作品では横穴から繋がる施設のこともまとめてバンカーと呼ぶ。
※2:ガバ
…コルト・ガバメントこと、コルトM1911のこと。
※3:中米紛争
…普通は1970年代後半から激化した中米一帯で起こった内戦のことをさすが、
ここではその中でも1979年にニカラグアで起こったニカラグア共和国と
それに反対する反政府ゲリラのコントラの間で起きた内戦のことをさす。
余談だが、ニカラグア政府を支援したのがソ連やキューバ、中華人民共和国で、
逆にコントラを支援したのがアメリカや親米的な中米諸国だったため、
冷戦期における東西代理戦争の一つの場であった。
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