第15話 取引なのです!

8月17日―P.M.6:30―イタリア・ローマ郊外―


太陽がローマの西の空で真っ赤に嫌なほど輝く頃。

ノアとティリアの二人は車で取引現場へと向かっていた。

車はグレーのクーペ。

特に変な機能は無い、ただのドイツ車のクーペである。


「ここ左かな?」


「なのです。ついでに尾行はいないのです」


「オッケ。あと車で十五、六分ほどかな?」


「では、私はここで降りるのです」


「分かった。じゃあ、ノアちゃんは取引まで待機ということで」


「分かったのです。狙撃ポイントに着いたら一応メールは入れるのです」


「お願いね」


会話が済むとノアは車から降り、後ろの小さなトランクからAMP45の入ったケースを取り出し、道路の脇から入り組んだ路地へと歩いていった。



◇◆◇◆◇



―ティリア side―


ノアが路地に入ったことを確認し、車を走らせる。

すでに日は沈みかけている。

いくら夏は日が長いとはいえ、このぐらいの時間には沈み始める。


そんな少々暗い道をそれなりのスピードで走る。


しばらく走ると、後ろから1台車が出てきた。

バックミラーで確認すると、男が四人乗っていた。

おそらく尾行であろう。


巻くこともできるがここでそんなことをすれば怪しまれる。

だからここは素直に付けさせる。


そんな感じにつけられながら走ること十数分。

取引先の石造りの3階ほどの高さのあるビルらしき場所の前に車を止める。

車内で少し待つと…


『狙撃準備整ったのです』


「わかった」


ダイヤから連絡を受けた。

それでダイヤが配置に着いたことを確認し、ドアを開け降りる。


鍵を掛けておくが、どうせなんか細工はされる。

一応タイヤはパンクしてもボタンひとつで直せるが……まぁ、いいか。

なんとかなるでしょ。多分。


え?普通の車にはパンク修復機能は無いって?

スパイの乗ってる車には普通にあるんだよ。


さて、ココからも敵地…それも特に警戒の厳しい敵地である。

だけど、固くならないように軽く歩く。


余裕を消さないように………



◇◆◇◆◇



―ノア side―


ティア姉と別れ、薄暗い路地を一人歩く。


肩から可愛いデフォルメくまさんバッグを掛け、可愛い格好でいるが、手に持っている黒にエメさんの好きなアニメキャラであるチ◯ちゃんのイラストがプリントされているケースが絶妙に合わないような気がする………


そんなことは置いといて、取引場所を狙撃できるところへと向かう。

一応道中の襲撃に備え、バッグからSPPを抜いてサプレッサーを付けておく。


なんかあるかな〜?と思ってたが案外何事もなく、狙撃ポイントであるビルの裏口に着いた。


でもね、ノア知ってる。

大体こういう時は扉を開けた瞬間大人の人が襲いかかってくるって。


そんな風に思いながら扉をそっと開ける。

そのまま中に入り、銃を構える。


すると後ろに気配が…


「くたばれロリコン」


右手に持ったケースで殴ってやる。

ケースは後ろにいた敵にクリーンヒットしたようでちらっと後ろを見たら悶絶してた。草。


もう一人いた男は後ろからSPPを突きつける。


「バイバイなのです」


「ま、待て、取引だ」


「なんなのです?」


「情報を教える。俺等の雇い主だ!」


「ほう、言うのです」


「その代わり助けろ」


「まぁ、いいのです」


「なら言うぞ……フィリック・クルーガーだ」


「実業家の?」


「ああ」


「わかったのです」


パスッ…


「グッバイなのです」


とりあえず反撃される前に撃つ。

別にコレが嘘でも探る方法はいくらでもある。


ならとっとと殺したほうがいい。


部屋にだれもいないことを確認し、ケースを持って階段を上がる。

二階にも三人ほどいたが気付かれること無くサクッと殺る。


三階に上がると、二人ほどいた。


一人を撃ち抜くともう一人がこっちに気付いたのか振り向いたが…


「遅いのです」


手に持っているハンドガンのテイクダウンレバー※1を引いて銃のスライドを盗ってやる。

そして流れのまま、右肘で頬を殴る。

怯んだ隙にSPPを突きつける。


「大人しく両手を上げるのです」


「ハハッ…こんなガキにやられるとはな……早く殺せ。恥は晒したくないからな」


「なら雇い主の名前だけ吐くのです。吐いたら楽に送ってやるのです」


「まぁ、正直そいつは好きじゃなかったしな。いいぜ、教えてやろう…フィリック・クルーガーだ」


「ありがとなのです」


頭をSPPで撃ち抜く。

まぁ、苦しんで死なないだけこっちも情を掛けるのです。


これでビルは制圧したから、狙撃ポイントに着いた。


「よし、早く組み立てるのです」


ケースからAMP45を取り出し、サプレッサーをバレルに付け、フォアグリップをアンダーマウントに付け、折りたたんでいるストックを広げ、前の任務でも使ったショートスコープをスコープマウントに付け、最後にマガジンを差し込み、構えて狙撃姿勢を取る。

警戒のため、そばには敵の接近を教えてくれるサポートマシンを置いておく。


それが済んだら無線を入れる。


「狙撃準備整ったのです」


『わかった』


こっからは集中の時間なのです。

この際、黒のブラウスに茶のショルダースカートで肩からはくまさんのバッグを掛けているロリがサブマシンガンのスコープを覗いているということは置いておこう。

まじでシュールだから……



◇◆◇◆◇



―ティリア side―


ビル内の扉を開けると、取引相手のみなさんがいた。


「遅い」


「まだ三秒ほどある。ドイツ人みたいなことを言うな。ここはイタリアだぞ」


「まぁいい……だが、お前は誰だ?」


「誰って?グレイグ・ジョーさ」


「俺等はグレイグ・ジョーは男と聞いているが?」


「ありゃ世間に向けたジョークさ。この業界で女はなんか舐められるからね」


「ほぅ……まぁ、いい。例のブツは?」


「コレか?」


といってアタッシュケースを出し、開けてやる。

中にはユーロ札がたっぷり入っている。

数枚ほどくすねても誤魔化せそうだ。


「ああ、そうだ。ほれ、こっちもブツを出すから渡せ」


「まて、そっちも見せろ」


「まぁいいだろう。ほらよ」


といってオリーブドラブの箱を開けると、中にはカラシニコフ一族※2やシカゴ・タイプライター※3、コルト・ガバメント※4をはじめ、たくさんのハンドガンや、アサルトライフル、果てはショットガンにグレポンまである。

もちろん弾薬もびっしり詰まっている。


「ちゃんとあるな…」


「そうか、ちゃんとあるか……ハハハ、あんたホントにグレイグ・ジョーか?」


「ああ、そうだが」


「ハハハハハ…!あんた今回の取引の目的を知らないのか?今回の目的はあんたらに新型のワンダーフォーゲルを渡すことさ!それを聞かないとは随分おめでたいな!」


「ワンダーフォーゲル?」


「そうさ!それを知らないとは…よっぽどのバカか、スパイかの二択だな」


「そうか……バレたか……」


「やはりお前はスパイか……さて、どこのかじっくり聞かせてもらおうか……」


「まぁ、まて最後に一服させてもらえないか?」


「まぁいいだろう早く吸え」


まさかワンダーフォーゲルが出てくるとは……しかも新型の……たしかアレって多弾頭かされていて、一発撃つと八発撃たれるとかいう訳わからん兵器だったか?

ご丁寧にロックオン機能も健在だ。

さて、そんなことは置いといてバレたか。

まぁ、ライターぶん投げておくか。


だから、スーツの内ポケットから違和感のないように葉巻を取り出し、切る前にコッソリライターを出す。シガーカッターを探すふりをして………

シガーケースのそこのカッターに気付かれないように……


「おっと手が」


爆発スイッチを押したライターを転がす。


「なんだ!?」


ライターは転がってすぐに派手な爆破を起こした。

私は巻き込まれないように物陰に飛びこむ。

そのままSPPをショルダーホルスターから抜いて撃つ。

その爆発を合図に銃撃戦が始まった。


「やれ!」

「殺せ!」


さっきまで静かだった部屋は銃声が鳴り響き、硝煙が舞う戦場と化した。


同時にノアもサブマシンガンを撃つ。

この煙やら暗闇で見にくくても確実に射抜いているところを見る限り、ノアは暗視装置をオンで撃っているのだろう。

まぁ、なんにせよ、ノアには頑張って欲しいね。


さて、こっちも頑張りますか………逃げることを。

と思い立ったが吉日、逃げよとしたところ思いっきし出口を塞がれた。

草。


とりあえずこっちはサーマル※5もないから音のする方へ銃を撃つ。

一応しっかりサプレッサーを付けたうえで撃つ。


八発を撃ち尽くすと、素早くリロードし、スライドを戻す。

SPPにはローデッド・チャンバー・インジケーターがついてるため、親指で薬室に弾があるかを確認しつつ銃を敵に向ける。


しばらく打ち合ってると…


「例のアレを使え!」


なんかやばい言葉が聞こえた。

とりあえず赤のラベルのシガーを二本ほどシガーカッターで切り、ポイと投げる。


予想よりも派手な爆発が二度ほど起こる。


相手が混乱している隙に続けざまに青ラベルのシガーを投げる。


これで相手が少しは大人しくなるといいのだが………


キィィィンという派手な音とマグネシウム由来の目を焼くような光が部屋中に広がる。

それが晴れると同時に十数名の男が倒れているのを確認できた。

が、しかし依然として敵は多い。

一体二人相手に何人がかりで襲いかかっているんだが…

いや、何十人がかりか……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


※1:テイクダウンレバー

 …テイクダウンラッチとも言う。

  銃を分解するときに使用する分解用装置のこと。

※2:カラシニコフ一族

 …ソ連で作られているAK-47を始めとしたAKシリーズのこと。

  カラシニコフというのはAK-47の設計者の

  ミハイル・ティマフェービッチ・カラシニコフから来ている。

  代表的なものにAK-47、AKM、AK-74、AK-12などがある。

  派生的なものにはRPK(ロシアのマシンガン)、ドラグノフ狙撃銃、

  AS VALエーエスヴァル(消音ライフル)などがある。

  ちなみにくっそややこしいが、スウェーデンのボフォース社の製造するAk 5

  と呼ばれるアサルトライフルはAKシリーズとは何ら関係ない。

※3:シカゴ・タイプライター

 …トンプソン・サブマシンガンのこと。

  由来は銃声がタイプライターと似ているところから来ている。

  余談だが、トンプソンはよくギャングの持ってるイメージがある。

  (禁酒法の時代のアメリカでギャングの間の抗争で使われまくったから)

※4:コルト・ガバメント

 …コルトM1911のこと。

  由来はM1911シリーズを売る際、”政府使用モデル”として売ったため。

  (ガバメント…Government…政府)

  余談だが、M1911はバリーションがとても多く、数え切れないほどある。

※5:サーマル

 …ここでは熱源探知機のこと。

  衣類のことではない。

  俗に言うサーマルゴーグルや、暗視装置のこと。

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