退散

なりた供物

「退散」

昔から虚弱体質だったが、まさか本当に死んでしまうとは想像だにしていなかった。


そして、未練の残る死に方をしてしまったせいで成仏できず、私は今、宙に浮いている。


死にたかったわけではなかった。恵まれた家庭だったと思う。お父さんは気分屋でいつもプラスチックの中に金が入っている?ものを持ち帰ってきたし、お母さんは世界平和につながる?おじさんの写真を目の前にして土下座をしていた。そのあたりはちょっと変だったけれど、刺された事は無かったし、恵まれていたと思う。


しかし、死んでしまった。ただの心臓発作だ。これまでも意識が3回ほど飛んでいたので、次は死ぬんだろうな、と覚悟はしていたが、まさか本当に死んでしまうとは思わなかった。というのが正直な気持ちだ。

さて…家族が心配だ。見に行こうか。


父親は…どこにいるんだ。

いた。


消費者金融?に行っていた。金が無限に湧いてくるとか言っていたが、今回も見事に湧かせている。すごい能力者だ。しかし、そんな甘い話は無いと思うのだが、実際どうなのだろうか。


母親は…家にいた。


「お前の信仰心が足りないから娘が死んだんだ!」

「お前は今悪魔に取り憑かれている!!!」

不思議な白服が現れて、お母さんを怒っている。お母さんに叩かれた事は散々あったが、お母さんが叩かれているのは初めて見たな。


お母さんはずっと、ごめんなさい、ごめんなさいと謝っていた。そこに父親が帰ってきた。

「はぁ…しゃあねぇ、俺が金貸してやるから、これで彼女を"退散"させてくれ。」


わかりました!!!

と笑顔で話す白服。えーーい、いなくなれ〜〜と、それっぽい事をしている。

そして「退散」が終わった。


「あの…これで娘は地獄に堕ちたんでしょうか…?」

「はい。信仰心の足りない彼女は、残念ながら地獄行きです。ですが安心してください。彼女がお二方を地獄へと誘っていましたが、これで彼女とはなどと会えなくなりました。」

「良かったわ!!あんな忌みの存在が消えてくれて!このご恩は一生忘れません!」


…ずっと向き合うべきだと思っていた。


普段の生活が苦しすぎて、ずっと目を逸らしていた。向き合えてなかった。

お父さんも私と同じで、母の信仰から目を逸らしていた。その結果、人が変わってしまった。

毎日ギャンブルに入り浸り、すっかり金銭感覚も狂ってしまった。

母親も同じだ。宗教に入り浸り、信仰のためなら何だってするようになった。信仰心のない私に対して暴力を振るったり、たまに鞭を打ってきたり。本当に、刺されなかったのが不思議だ。

そんな家庭だった。けれども、不思議とまだ恵まれているように感じている。肉体は死んだけれど、体が死んだわけではないからか?いずれにせよ、もうこれで両親に理不尽な事をされずに済むだろうな。


…そういえば、本当に私は、心臓発作で死んだのだろうか?それすら違和感を感じるようになってしまった。

こんな感じじゃ、きっと一生成仏はできないし、このまま地縛霊として、呪い続ける事になるだろうなぁ…


呪いかぁ………


案外、悪くないかもな。家族も、宗教も、呪い殺してやる。「退散」させてやる。

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退散 なりた供物 @naritakumotsu

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