第26話


 天気は晴れ、今年は空梅雨だからか心地よい暖かさは春が長続きしてるような感じだった。中間テストを終えたこともあって、生徒たちもずいぶんリラックスしてきているようだった。

 黒谷さんの他にも「遅刻魔」な生徒が出始めていたし、アルバイト疲れで1日中眠っている生徒もいる。サボりだって俺たち以外にもそこそこの生徒がし始めていたし、中学校とは少し違う雰囲気ができていた。


 高校はいつだって辞められる場所。

 つまりはサボっていても遅刻していてもそれは生徒の自己責任であり、そのせいで授業についていけなくても留年になっても教師の知るところではないのだ。


『(黒谷)チャイムがなる頃に裏庭集合ね! ちゃんと靴に履き替えてね』

『(鮎原)了解』


 昼休み、俺はいつも通り自分の机で昼食をとった。このクラスでは俺のようにぼっちで昼食を食べる生徒は多い。ガリ勉組はイヤホンをつけて何かの動画を見ながら勉強していたし、女の子でもぼっちで楽しんでいる子もいる。

 同調圧力の強かった中学校とは違い、少しだけ心地よく感じる。もちろん、ぎゃあぎゃあと騒いでいる連中についてはあまり好みではないけど。


 昼休み終了の15分前、俺はスマホと財布をポケットに入れて教室を出た。黒谷さんのメッセを見るに今回のサボりスポットは学校の外らしい。

 中学の時もサボり魔だった俺だが、流石に学校の外に出たことはない。そういうことするのはヤンキーくらいだったからだ。

 学校内でサボるよりも抜け出す方が罰則は厳しそうだし……けど、最悪辞めてしまえばいいのだから今は黒谷さんとの時間を楽しもうじゃないか。


 昇降口で靴に履き替えて、校門近くに見張りの教師がいることを確認してそいつに気がつかれないように端っこを通りながら校舎の裏側へ向かった。グラウンドでは部活動の生徒がロードワークをしている。

 それをグラウンドの端っこで見守りながら声出しをしている小さいのはおそらく秋田さんだ。


 グラウンドの端っこを校舎沿いに歩いて、かなり狭い路地に入ると黒谷さんがこちらを向いて手を振っていた。


「遅いよ〜」

「悪い悪い」

「じゃ、いきますか」

 黒谷さんは校舎とグリーンフェンスの狭い隙間しかないような場所で楽しそうに笑った。

「いきますか、ってここがサボりスポット?」

「まさか、見てみて、これ」

 黒谷さんはフェンスの下の方を指差す。

「あっ」

 グリーンフェンスにはかがんだらギリギリ通れそうな穴が開いていたのだ。これなら校門を通らずに学校の外に脱走することができる。

「多分、サボりの先輩たちがあけたんだろーねぇ。さ、行きますよ〜」

 彼女はその場にしゃがみ込むと膝をついて四つん這いになってフェンスの穴をくぐった。

 俺は黒谷さんの短いスカートから当然のように見える薄ピンク色の下着に思わず目を逸らし、空を見上げる。

 けれど、もう遅かった。俺の脳裏にはしっかりと可愛いレースの下着とふっくらしたお尻のフォルムが焼き付いている……。

「あちゃー、泥ついちゃった。空君、何してるの〜、早くしてよね」

 パンパンッと膝の泥をはらって、フェンスの向こう側から黒谷さんが俺に声をかけた。幸い、彼女は俺に下着を見られたことに気がついていないらしい。

 俺も慌ててフェンスの穴から外に脱出して、制服のズボンについた泥を拭った。

「さてと、行きますか〜」

 黒谷さんが歩き出すと、俺は彼女の後ろをついていく。頭に残るさっきの下着を振り払うように別のことを考えながら……。


 校舎裏から路地を抜けると住宅街に出る。住宅街の細かい私道的なところを抜けると大通りに突き当たった。普段、この大通りを歩くことはないので新鮮だ。中央分離帯が結構しっかりしているタイプで車通りも多い。

 だからか、大通りにはファストフード店や回転寿司、ガッツリ系のチェーン店ラーメンなどが立ち並んでいる。

 俺は財布を持ってきてよかったと安心する。少なくとも1人で食べる分くらいはあるし、お茶くらいなら黒谷さんの分だって払えるはずだ。

 

「結構大通りだね」

「ね〜、普段こっちに来ないけど実は引っ越す前はこの辺近くってさ。結構ファミレスとかカフェもあるしいいよね。空君お腹は?」

「さっき昼飯食った。黒谷さんは?」

「私もお昼は食べたからいいや。じゃあ、サボりスポットまで行きますか」

「えっ、どっかのお店に入るとかじゃないの?」

 俺の反応を見て黒谷さんは悪戯に笑った。まるで俺が鈍感みたいじゃないか。

「言ったでしょ? 静かでお昼寝できるスポットだって。ファミレスじゃあできないでしょう?」

「あぁ、そういえば……」

「もしかして、空君さ」

 ぐいっと俺の方を覗き込んで疑いの目を向けてくる彼女に、何も悪いことをしていないのにドキドキしてしまう。

「な、なんだよ」

「私のパンツ見た?」


——バレていたのである


 


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