第25話
面倒な宿題を片付けて、風呂を済ませてからゆっくりとテレビを見ていると、キッチンから母さんに声をかけられた。
「ちょっと空、お風呂の栓抜いてくれた?」
「あっ、忘れた」
「ついでに洗っててちょうだい」
「へいへい」
母息子2人なのでこういう時、俺は絶対に口答えをしない。家事は分担、それが我が家のルールである。といっても、料理関係は母さんがやってるが。
風呂掃除を終えて、リビングに戻るとテレビは母さんの好きな海外メロドラマに代わっていたので、飲み物とお菓子を持って部屋へと戻ることにした。
明日は黒谷さんと授業をサボる約束がある。なんでも新しいサボりスポットを教えてくれるとか。
黒谷さんは教室では割とクール系なのに、俺の前では全然違う子みたいなことが多い。その理由はいまだにわからないが、あのコンビニでの事件以降そのギャップが強くなった気がする。
クラスの男子たちは黒谷さんのことを「ツンツン系女子」とか「クール猫系」とか噂しているが、俺からしてみれば普通の女の子だと思う。
むしろ、デレデレ系……いや、脱力系? まぁ、猫ってところは正しいと思う。悪戯好きだし。
『(黒谷)ねね、暇?』
噂をすれば(してないけど)黒谷さんからメッセージが飛んできた。
『(鮎原)なんで?』
『(黒谷)バイトもないし、ママも夜勤だから暇なんだよね〜、付き合ってよ』
『(鮎原)うーん、お菓子食いながらでも行けるなら』
既読がつくと同時にすぐスマホが鳴った。
【着信 黒谷ニコ】
「もしもし」
「あ、空君やっほ〜」
黒谷さんの後ろで「ソラ」という名前に反応したのか猫のソラ君がニャオと返事をした。
「おう」
「今何してたの?」
「別に、部屋でお菓子食ってから動画でもみようかと」
「いいなぁ〜、なんのお菓子?」
「えっと……」
俺はスナック菓子の名前を読み上げた。ジャンル的にはしょっぱい系のスナック菓子だがほのかな甘さが好きでうちにはストックがあるほど気に入っている。
「それ、私も好きかも。けどコンビニになくない?」
「あれ、小学校の近くのスーパーとか行かないの?」
「あ〜、いかないっていうかそっちにスーパーあったんだ。お買い物はママが夜勤明けにしてきてくれるからな〜」
「小学校の方にあるスーパーにあるんだけど、今度休日行ってみたら?」
そうか、考えてみれば彼女はまだ引っ越してきてまだ日が浅いのだ。そりゃ知らないか。
「え〜、空君も一緒に行こうよ〜」
「今度帰り道に行くか?」
「いいのっ? いこいこ」
「結構お菓子は駅前のスーパーと品揃え違うし惣菜系も美味しいんだよな。小学校の近くだからか駄菓子もいっぱいあるし」
「やば〜、テンション上がるんですけど!」
「よかったな」
「空君と放課後デート? 的な」
デートなんて言われてしまうと意識せざるをえなくなって、俺はスマホを持つ手に力が入る。多分、向こう側にいる黒谷さんはいつもの意地悪っぽい笑顔で笑っているはずだ。
最近、黒谷さんは俺が照れるのをみて楽しむ節がある。俺が襲ったり危害を加えたりしない人間だというのがわかったのかちょっとえっちに捉えられるようなことを言ってみたり……。
揶揄われると、俺だってやりかえしたくなる。
「黒谷さんってさ、どうして学校ではクールぶってるの?」
「へっ?」
「だってさ、普段はこんなに元気で優しい子なのに、学校だと結構クール系というか……特に男子にはあたり強かったりするだろ?」
「そ、そうかなぁ?」
「そうだろ、今日だって告白してきた男子を『は?』の一言でねじ伏せてたじゃん」
あぁ、考えるだけで男子にとっては恐ろしい出来事だった。勇気を出して告白をしたのに「は?」とたった一文字で撃沈させられる……プライドも自信もボッキボキに崩れて落ちてしまうだろう。
「ま、まぁ? まだ入学して日にちも経ってないし? こう……そのなんていうのかな。空君は友達の中でも……その」
「なんだよ」
「すごく……仲がいいって思ってる……からぁ」
黒谷さんが消えそうな声で言うので俺は罪悪感に押し潰されそうになった。別に困らせてやろうと思ったわけじゃ……。
「気を許してくれてる……とか?」
「ま、まぁそうとも言うね。そうかもね?」
あははと誤魔化すように笑うと黒谷さんは「ふぅ」と小さく息を吐いた。まさか、黒谷さんがこんなに慌てる姿を見られるなんて、俺はラッキーかもしれない。
けど、どうして慌ててるんだろうか。まさか、ガクイチギャルの黒谷さんが俺のことを好きだとかそういうミラクルがあるのかも……。
「あんまり、男の子たちにひどい言い方するなよ。恨まれるぞ」
「空君が行き帰り護衛してくれてるしヘーキ」
「俺は思いの外強くないぞ……」
「え〜、まじ? 結構背も高くない?」
「平均ですよ、傷つくからやめてくれ」
「ふふふ、けど男の子が隣で歩いてくれるだけで安心なんだよ〜?」
「おいおい、そう言われると学校辞めづらいじゃんか」
「やめなくていいんだよ? それか、私が他の誰かと付き合うのを応援する?」
それだけは絶対嫌だという感情が湧いた。自分でもその感情が出てきたことがちょっと意外でびっくりした。
——もしかして、俺黒谷さんのことが好きみたいだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます