17話 無表の虚影

「うーん、ミスった」


 リュビに武器を作ってもらうため、強敵を探しに偕老同穴かいろうどうけつの峡谷の探索を進めていた。最初に出会ったゾンビは第二の街周辺の敵とそう大差ないくらいの強さで苦戦はしなかったため、どんどんと探索を進めていた。しかしまぁ、お察しの通り死に戻りしたんですけどね。


 いやぁ、そうだよ。ゾンビと言えばゾンビパニック、音に反応してワラワラと集まってくるのがゾンビの習性。そして、一撃でも喰らえばゾンビウイルスに感染してゾンビになると。うん、定番だよな。……くっそぉ、遅い動きで襲いかかって来るだけだから油断した!まさか、囲まれて何とか対処してたのに1度掴まれたら全く振り解けないとは。死んでいるからこそのパワーなのかそのまま噛みつかれてゾンビウイルスに感染、感染すると回復が出来なくなってそのまま削られTheEND。なんともうざいコンボだ。このフィールドの設計したやつ絶対性格悪い。


「はぁ、デスペナ重いなぁ」


 このゲームのデスペナは30分ステータス8割減と所持金2割減とまぁまぁ重めのものになっている。所持金が2割減るのは元からあまりというか持っていなかったため痛くないが、ステータス減はきついものがある。金もないから買い物もできないし、どうしようかな?そういや、まだツァーリの町をまだしっかり観光してなかったな。やることは多いがたまにはゆっくりもわるくない。……いや、まてよ?ステータス8割減か……あれ?これ俺なら全然デメリットじゃなくね?俺のステータスは初期値。SPは降らずに貯めていて足りないステータスは称号やスキルで補っている。ということは、素のステータスは下がっても色々と上乗せさせたステータスは下がらないんじゃないか?おっと?これは修正案件ですね。いや、でもこれもこの無振り育成の強さといえば強さなのか?ま、難しいことは考えなくとも戦えるという事実こそが大切だな。よし、とりあえず速攻リベンジに行くか。いざ行かん偕老同穴かいろうどうけつの峡谷、待ってろ腐った肉片。






「さて、というわけで戻ってきたわけだがとにかくなるべくゾンビとの戦闘は避けたほうがいいな。」


 スキルレベル上げという点においては無限に寄ってくるから効率がいいが、ドロップはレアドロップがあったとしてもあまり強くなさそうだし、一体一体倒してそのたびにゾンビをひきつけていたら探索効率があまりにも悪い。目標は強いモンスターの素材をなるはやでゲットすること。目標を見誤ってはいけない。


 谷の底といっても壁に横穴が多く開いおり洞窟のようになっているフィールドは奥に行くにつれて下に下にと下がっていく。そのため、なるべく横道も探索しつつ下に向かっている道を探しながら奥に進む。奥に進むにつれてより一層霧が濃くなっているのか見える範囲が先ほどより狭くなってきた。すなわち奇襲を受ける可能性が増えるわけで……


「くそぅ、やっぱ索敵系の魔法とかスキルがほしいな。パーティーなら盗賊とかが担当してくれるんだろうけどソロだと全部覚えないといけないのがつらいこの調子だといつかソロの限界がきそうだ」


 索敵ができないと頭の中で他のことを考える余裕すらなくなる。また、今のようにほかのことを考えているこの時を何というかといえばそれは、集中力がかけた状態といい、集中力がかけたらどうなるかといえば


「ッ!」


 奇襲を受ける。どんなに優れた人物であっても集中力を欠いた瞬間だけは失敗をする。だが、やはりこれこそが俺の持ち味であると、どこからか伸びてきた黒い槍のようなものをギリギリのところで感覚的に回避する。


「この攻撃はゾンビじゃないな……影?ゴーストか?」


 うす暗い霧の中で確かに人型を模っているかたど黒い靄のようなモンスター……ふむ新手だな。


「名前は無表の虚影。なるほど、わからん」


 結局影なのかゴーストなのかどっちなんだろうか?っと見えなくなったな。逃げたわけじゃなさそうだが、こちらから無表の虚影を補足することはできそうにない。


「となればこそやることは待ち一択だ。下手に動けばほかのモンスターをリンクさせたり囲まれる可能性がある」


 松明の光で見える範囲はとても狭いが見えてからの対処でもなんとかできるはずだ。そして隠れて襲ってくる奴ってのは大抵死角からくるものだ。


「ッ!セィ!」


 想像通り後ろから来たな。動かずにいたおかげでタイミングがつかみやすかった。やっぱ全然効いてないか。こういうたぐいのモンスターの弱点は属性ってきまってるからなぁ。でも俺魔法使えないし、唯一使えるのは蛇のセスタスのウォーターブレスだが……取り敢えず持ち替えて使ってみるか。


「【ウォーターブレス】!」


 再び黒い靄を伸ばして攻撃してきた無表情に佇む人影に対し手を向けスキルを発動させるとセスタスに絡みついた蛇の口辺りから水がレーザーのように噴出される。だが、そのレーザーは噴出される時間が短いうえ直線にしか発射出来ず素早い動きで斜線から逃れた人影に回避されてしまう。想定通りだがやはりこのスキルは扱いにくい。となるとあとは……


「ッ【スラッシュ】、あれ、一撃?ふむ、スキルを使えばダメージが通るのか。その分めんどくさいけどHPが低い敵だったかな?ドロップは虚魂結晶、ちょっとレアそうだし武器に使えそうだな。さて、ゾンビが来る前にどんどん先に進みますかね」








 その後もカラスのモンスターやゾンビ化したウサギなど初見のモンスターやさっきの無表の虚影はドロップを集めるため倒して進み、あいかわらず頻繁にエンカウントするゾンビは無視して進む。途中貰った武器の調子をなるべく確認したが、結構いい感じで正直これでいいんじゃないか?新しい武器いらんくね?と思うこともあったが、まぁ強いこれぞという武器があった方が切り札になるし、やっぱり気持ちのこもった武器の方がいいなと思い直し特に問題はなく進む。


 スキルレベルもキャラレベルも上がったし、やっぱりレベル高めなフィールドなんだなぁ。おかげ様で戦闘時の選択肢も増えて戦闘が今まで以上に楽しくなった。それにレベルが上がった時に覚えたスキル【第六感】のおかげで敵に狙われた場所が分かるようになった。奇襲にあってもどこから狙われているかわかるようになったから、多少気を抜くことができるようになったのは滅茶苦茶でかい。それに【暗視】もまだレベル1だから見える範囲も狭いが中々に効果がある。戦闘面だけではなく、所々に金貨などのお宝が落ちているのに気が付くことが出来て懐が潤い、今は役に立っている。他のプレイヤーはスキル上げの効率が落ちるからかすぐ消すらしいが、俺は現状スキル上げに困ってないし取っておくのもありかもしれないな。


「ま、正直音響探索ソナーみたいな感じのスキルが欲しかったんだけど」


 そこらへんのスキルがあれば、映らない敵が居るだろうから注意こそ必要ではあるがそれでも集中する時間が少なくて済み精神の摩耗を抑えることができる。ゲームはつまらないとか飽きたとかよりも疲れるから辞める場合が多いはずだ。少なくとも俺はそう。だからこそ、強いスキルも重要だが、快適度が上がるスキルの方が後々を考えれば役に立つ。ほら、プレイ時間が増えればその分強いスキルを獲得できる可能性も上がるわけだしね。


「結構奥まで来たんじゃないか?」


 スキルを新たに獲得してからはより探索ペースも上がったし、さっきからゾンビの数が減りその代わりか無表の虚影とエンカウントすることが増え、心なしか道幅も広くなっていた。ゲーム的メタから考えればそれすなわち大型の敵が出現する予兆。


「ん?また、無表の虚影か」


 目の前に人型の黒い靄が現れる。こちらに既に気がついているのか滑るようにして向かってくる。


 よしよし、もうパターンは確率してるんだ。こちらから攻撃に回る必要は無い。カウンターにスキルを叩き込めば終わる。暗示スキルを獲得してからはよくよく見れば見失うことは無くなったが見えない振りをして攻撃を誘った方が安定する。普通に戦うと変芸自在なモヤは武器をすり抜けるわ不規則に攻撃してくるわで対処が難しい。よってカウンター1択。


「ッ!今!」


 必ず背中から来る突きの攻撃を回避しスキルを何でもいいから1発当てるだけで終わる。



 はずだった。



「な!ぐっ!魔法?!」


 背後から来た攻撃はモヤによる突き攻撃では無く、魔法。黒い塊だった。それ故に攻撃に気が付かず避けきれずに直撃は避けたもののダメージを負う。そしてその魔法を放った人型の靄は既に見えなく、ポーションを飲みつつ暗視の範囲外にいる、もしくは完全に姿が消えている可能性の2つを考える。


(暗視外にいるならいいが、完全に消えている場合が問題だ。近くから魔法を打たれたら回避する余裕が無い可能性がある。それに、さっき一瞬見えたが靄に表情があった。初めて見るモンスターだ。新しい攻撃パターンがほかにもあっておかしくない)


「ま、なんにせよ倒すしかない。さあ!レアドロップ落としてくれよ!」

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