15話 リュビ

 その後2、3回戦闘があったが特に苦戦することも無く、妖女さんと月光花を取りに来た峡間高地に入る唯一の玄関口である橋の近くまで来ていた。


(鍛冶師と言うだけあって鉱石が多く取れる山の麓で小屋でも立てながら暮らしているのか?いや、でも峡谷に住んでるって言ってたしな。)


 などと考えていると橋から数百メートル離れた峡谷の目の前でアンネさんが歩みを止める。


「どうしたんですか?もしかして、怖いんですか?」


「馬鹿言うんじゃないよ。着いたんだよ、目的の場所に」


「へ?橋以外何も見当たりませんけど?」


 周りに見えるのは谷と高地そして山だけだ。周りにはたまたまかプレイヤーも全くおらず、人の1文字もない。あ、あれか?アザレアさんの所もなんか魔法で家が見えないようにしているって言ってたよな。ということは今回も同じように見えなくなっているのか。


「ふっ、あんたさっきあたしが怖がってるんじゃないか?と聞いてきたよね、その言葉そっくり返すよ。着いてきな」


「は?」


 アンネさんが挑発的な言葉を投げかけてきたと思ったら自ら峡谷へと体を投げ出した。


 一体なぜに?!身投げ?いやいや、そんな急にすることある?ないよな。


「あ、アンネさん?!だ、大丈夫ですか?!」


「早くこぃ……ーーー」


 真っ暗で地下が見えないが、見えなくなるほどの高さがあるのか、アンネさんの声が徐々に聞こえなくなり、時期に完全に聞こえなくなった。


 くっ、漢は度胸!行くしかねぇ!というか、よくよく考えれば偽龍蛇の時も落下死はしてるからな食いしばりが発動はしたけど。リアルなら安全が保証されてるバンジーでも怖いもんは怖いがここはゲーム。死んでも生き返る。よし!


「イヤッホォォォォイイ!!!うおおおおおおおおおお!なんだよ結構楽しいな、これ!にしても結構高いぞ、もう10秒くらい落ちてるから地面見えてもいいと思うんだが……お、見えてきたな。怖ッ!このままじゃ死ッと、これは?」


 先に飛び降りたアンネさんの持つ光が見え、地面も見えてきたという所で地面が近づいてくる恐怖を感じ始めたころに何もしていないし、何も見えないにもかかわらず急激にスピードが落ちてきた。そしてそのまま、ゆっくりと地面へと着陸する。


「よっと、いやぁ、いきなり飛び降りるもんだからびっくりしましたよ」


「ちょっとした悪戯心さ。ここは特殊な魔法が掛けられているからね。落下死しないようになっているんだよ。ま、ここしかダメだから降りる場所間違えたらぐしゃ!っと行くんだけどね、あっはっは」


 いや、笑い事じゃないでしょ。プレイヤーであれば笑い事で済むけど、NPCは、死んだら終わり。そんなことで死んだら死んでも死にきれないわ。あっはっはじゃないんだよな。


 それにしても不気味な場所だ。湿度か高いからかそれとも別の要因なのか空気がとても重く、ひんやりとしていてとても薄暗い。洞窟内だから暗いといわれればその通りなのだが、薄気味が悪いような気が流れている。


 攻略を見ないという縛りはこのゲームの深さを体感して止め、掲示板を色々と漁ってみたものの、この峡谷に関しては本当に情報がなかったため、どういうモンスターがいるのかわからない。ただ少し前までは、こういうわくわくを楽しみたいからこそ縛りをしてたわけで……俺も変わっちまった、情報がないってところから入るなんてな。どうやら俺も焼きが回ったようだ。


(でもやっぱ、この空気だと出るのか?奴が……俺は大丈夫だが、出来るだけなら戦いたくないな)


「そんな周りが気になるなら後でまた来るといいさ。目的地にはもう着いてるからね」


 そういうと、アンネさんは少しでっ張り色が変わっている壁に手を当て何かを唱える。するとどうだろうか、定番中の定番に想像はできていたがゴゴゴゴッと音を立て会談が現れる。うん、どこぞのギルドで見たことあるなこれ。


(うん、流石に2回目となると驚きもしないし感動もしないな。なんか悲しいわ。)


 後ほど訪ねてみたらどうやらこのギミックは同じ人が作ったみたいで、似通った事象には何らかの理由が付いていることを知り、世界設定に驚愕することになるが、当然そんな事当時は知らず先に進む。ギミックで出てきた階段を明かりで照らしながら先導するアンネさんについていき転ばないように下りるとこれまたどこぞのギルドと同じように洞窟のような通路に似合わないおしゃれな扉が現れる。


「さて、着いたよ。ここが鍛冶師リュビの鍛冶場兼家だ」


 そういうとノックもせずに扉を開けて奥へと進んでいく。


「何も言わず入っちゃっていいんですか?」


「良いんだよ。あいつはどうせノックしたって気が付きやしないんだ。それに許可は貰ってるからね。そうだろ、サピロス?」


「サピロス?あぁ、犬?」


「いや、そいつは犬じゃないよ。確かに見た目は犬だが、中身は全くの別物だ。ま、ものすごく賢いからこいつが犬らしく番犬をしているのさ」


「なるほど、見た目はチワワなのに凄いな」


 そういうと、サピロスはほめられたのがうれしいのか尻尾をぶんぶんと振い始めた。


「ま、それは置いといて……いるんだろう?客人を連れてきたよ!」


 先ほどから「カンッ、カンッ」と心地のいいリズムを奏でている方へと向かいその音が鳴っているだろう部屋、一番奥の部屋の扉を開ける。


「ん?アン姐さんじゃないか!久しぶりです!今日はどうしたんですか?」


「リュビに客人を連れてきたんだよ。こいつはコーラ。私たちの仲間で中々見ごたえも歯ごたえもあるやつだよ」


 歯ごたえ……それって実際に使って楽しんてるってことだよな、おい。


「うん、アン姐さんが連れてきた人だ。とりあえずは歓迎するよ!僕はリュビ、ここら辺じゃ珍しいと思うけど見ての通りドワーフさ」


 おぉ、ドワーフ!なるほど確かに、顎にはふさふさと揺れる髭そして頑丈そうな腕に低身長そして何より目を引くのが大きな胸!……鍛冶屋はまさかの僕っ子ドワーフでした。ひげ生えてるけど。

 でも、ひげ抜きにそして煤かなにかで汚れた髪や顔を頭でろ過して見てみると、20歳くらいのボーイッシュさが残る結構な美人なのでは?


「どうも、紹介にありましたコーラです。えっと、アンネさんに武器を作って貰えると聞いてきたんですけど……」


「それじゃあ、今使っている武器を見せてもらってもいいかな?」


「あぁ、はい」


「なんだ、これ!もう壊れる寸前じゃないか!メイスなんてもう壊れていてもおかしくない。どうしてもっと早く修理をしなかったんだ!」


「あー買ったのはこないだ、確か1週間くらい前だったからまだ大丈夫かと……お金も無いし」


「こないだ買った?この武器は初心者でも扱いやすいように攻撃力や鋭さよりも耐久度が高く作られているし……そんな早く壊れるものじゃないはずなんだけど……でも確かに長く使ってメンテナンスしなかった壊れ方じゃないし、短期間で無茶をしたからだろうけど、それにしても……」


 多分、あれだなフィールドボスを倒した最後の攻撃が致命傷だったんだろうな。それまで、重装甲虫なんかの滅茶苦茶硬い敵に攻撃してたダメージが蓄積して最後に爆発したんだろう……敵と一緒に。


「あーリュビ、それに関してはすまないね。こいつが予想外な成長スピードを見せるわ、何故か強敵と戦うわでメンテナンスに来させる余裕すらなかったんだ。あんたが、武器一つ一つを大切に作っていることは知っているが、だからこそリュビを紹介した……あんたが創る武器こいつなら扱いこなせるはずだよ。さて、私はもう行くよ。あとは2人で決めな」


「アン姐さんッ!」


 うん、関係性が見えてきた。リュビさんアンネさんを慕ってるんだな。俺が買った剣とメイスそして短剣はどれもアンネさんのところで安く買ったものだ。さっきの話を聞く限りいいものをサービスで安く売ってくれたみたいだし。それが分かるが故にさっきまで怒っていたんだろう。


 そりゃあ怒るよね、慕っている人が作った武器を一瞬で壊そうとしてたんだから。少なくとも俺なら怒る。でもまぁ、金なかったし結局は直すほどの余裕はなかったんだけど。


「その、すまなかったな。いろいろと原因があったのは事実だが、気が回ってなかった」


「いや、僕の方こそちょっと頭が熱くなっちゃって、ごめんね!取り合えず、アン姐さんの紹介だし武器を打って上げるけど……本当にどうやったらあんなにボロボロにできるのさ?」


 アンネさんに話したようにどんなモンスターと戦ったのか。どうやって戦ったか。どんなスキルがあるのかなど全く同じ内容のことをリュビさんにも話すとリュビさんは突然に笑い出した。


「あっはっは、それじゃあ壊れても仕方がないね。そんな無茶やってたらアン姐さんには悪いけど剣も持たないよね。コーラはこれからもいろいろと無茶しそうだし店売りの物じゃまたすぐ同じことになりそうだ。うん!僕に紹介したアン姐さんは正しいよ、コーラ、君に好きな武器あげるよ!」



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アンネ「これ差し入れ」

リュビ「ありがとうございます!」

アンネ「元気にしてるかい?」

リュビ「はい!」

アンネ「じゃ店ほったらかしてるし帰るよ」

リュビ「そんな、もう少しゆっくりと……」

アンネ「また来るよ」

リュビ「!!はい、待ってます!」

コーラ(チワワ?)

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