5話 カブトムシ

「お、オオカミ発見!」


 学校から帰りログインしポーションとか色々な買い物をした後、改めて冒険者ギルドに登録し悠里の言っていたオオカミ討伐のクエストを受け、最初の町(王都ワンダというらしい)を初めて出て無魔草原に訪れた。サービス開始から3週間たったからかプレイヤーはそこまでおらずすぐに標的となるオオカミを見つけることができた。サービス開始時はモブの奪い合いがテンプレだからな。それに巻き込まれないって思えば訓練に費やした日々も無駄じゃないな。


「よっし、初戦闘だ!訓練の成果今見せるべき、いざオオカミ10体ノーダメージチャレンジ」


 こちらに気が付いたオオカミがかみついてくる。そんな単調な動きを避けながら攻撃パターンを割り出していく。うん、オオカミの攻撃は噛みつきもしくは突進か爪による攻撃だけだな。


「余裕だったな、所詮は好戦的なだけの犬っころ、おらよっと!」


 左手のでかみつき攻撃を弾き後ろへのけぞったオオカミに右手でもったで追撃を入れると、オオカミは水晶が割れたかのような見た目のポリゴン片となり空に消えていき、地面にドロップアイテムが残る。


 さっきBarバリアンの上にある、ダルマンさん.....ギルマスの妻アンネさんが経営している鍛冶屋でいらない武器、ショートソードとメイスを格安で売ってもらったが……うん、手になじむ。それに、多分これはおまけして安くしてくれたんだろうな。格安の割にはそこらの店売りの剣より性能いいし。


「なるほど、流石にスプラッターにはならない、ドロップは地面に直接落ちると。インベントリに直接入らないのはめんどくさいな。オオカミの皮のみでレア泥は無しか」









 その者は目覚めの時を待っていた。まだ蛹で動けなかったその者は知能をほぼ持たないが己ので騒ぐ五月蝿いもの達を煩わしいと感じている。太古から眠りしそれは化石になったかのような体を感じる。未だ誰の目にもつかぬその者は土の中で少しずつだが、力を蓄える。体を流れる血液が運ぶ少し前から文字通り爆発的に多くなった爆発するエネルギーをが抑える。今までは感じなかった空腹を感じる。その感覚を知ることでもうすぐ目覚める事を本能的に理解する。








「うおっ?!なんだ、地震か?!」


  この世界でも地震があるのか?いや待て、地面に亀裂?まさか!!!


  時間が経つに連れて亀裂が大きくなるのを確認しやはり自分の考えがあっている事を確定し、なるべくから離れる。やがて立っていることすら難しくなってくると同時に地面がせりあがってくる。


「さて、何が出てくるのだか」


  「gyaooooooooooo!」


「へぇ、って鳴くんだ……いやいや待て!なにあのサイズ、トラックよりでかいぞ?!」


  ユニークモンスター

 重装甲虫カブトボーグ


 ユニークモンスターだ……と?

  何それ!聞いてない!おい、ゆーりそんなのがいるなら言っといてくれよ!というかチュートリアルエリアの平原でこんなの出てきたらダメだろ!?


  馬鹿でかカブトムシってだけでも強そうなのに、全身にめちゃくちゃ硬そうなんですけど、これ勝てるんですかね。


「な、なんだあれ!」


 くそっ、しかもこんな時に兎を抱えたNPCの狩人が!ゲームかよ!ゲームじゃねぇか!ここで俺が引きつけるか?いや、あんだけの巨体じゃ踏み潰されて終わる。よし、逃げよう。


「おい!そこの兎抱えてるやつそんなの捨てて早く街まで走れ!」


「君はどうすんだ!君も早くこっちへ来なさい!」


「俺はこいつを森のほうまで連れていくから、町に注意喚起しといてくれ!おらっ、こいよでか物!」


 こんなのがもし町まで飛んでいったら大変なことになる。もしかしたらトプスさんたちが撃退するのかもしれないが被害は出るだろう。なら、俺にできることはなるべく町から放すのみ。


 街で買った投げナイフを目めがけて投げる。流石にそんなうまく小さな……小さいといってもタイヤくらいのサイズはある目には当たらない。だが、重装甲虫は確かにこちらに注意を向ける。


「よっしゃ、このままついてきやがれ!」


 投げナイフを投げつつ注意を引き平原を進む。身にまとっている装甲が重いからか進む速度が遅くなかなか追いつけないことに業を煮やしたのか、重装甲虫は一度立ち止まる。


「お?どうした、あきらめたのか?」


 ま、そんなわけないよな。というか俺に気にせず町まで行かれても困るし。さて何をしてくる?考えろ、カブトムシがしてくる攻撃は角による振り回しとするどく力の強い手足での攻撃が考えられるが。いや、俺からみたら巨体が一番の武器か。そして巨大なカブトムシとなればしてくる攻撃は.....


「突進突きか!」


 その判断に行きつくと同時に重装甲虫は重い体を支えるための力強い手足すべてを進むためだけに使い地面を搔きスピードを上げ地面を削りながら突進してくる。


「そんな攻撃、来るとわかってたら対処できるんだよ!」


 重装甲虫を中心とし円形を描くように走る。こういう時は下手に距離を離すより詰めたほうがいい!そうすれば……


「gyaaooooooooooooooooooooo!」


 巨体が猛スピードで走り去るトラックの様に「ブォォォン」という音を立てながら真横を通り過ぎる。よし!


「想像通りだな、お前小回り利かないだろ?やっぱあきらめなければ何とかなるんだよ人生!ほら、お返しだ!」


 メイスによる攻撃が通り過ぎようとする重装甲虫の足に鈍い音とともに確かなダメージを与えるが遅れてあたった片手剣は弾かれ少しもダメージが入らない。

  っく、斬撃耐性か。序盤じゃあまり使わないだろうなと思っていたメイスがこんな想定外の場面で役に立つとはな。


  だが、やはり重装甲という名は伊達じゃないようでメイスでの攻撃でもあまり効いた様子はない。


「くぅ、硬すぎだろ、だが見えてるんだよ、攻撃した部分の装甲が少しはがれていることにな」


 少しはがれたということは殴り続ければいつか勝てるということ。そう信じてその後も森に向かって走りつつ数十回ほど同じ事を繰り返すとようやく足から柔らかそうな部位とそして目前に森が見えてきた。


「よしよし、となるとあと問題はあいつが森の中まで追いかけてくるかだが結構ダメージ入れてるし多分来るだろ。途中他のモンスターとかプレイヤーもいたのに永遠と俺のこと追いかけてきたからな、モンスターはつぶされるものもいたけど。はぁ俺が何やったっていうんだよ。」


 ダメージを多く与えたからか、それとも時間経過故か、はたまた、重装甲虫が羽虫一匹に攻撃が全く通じないどころかダメージを全体から見たら微小ながらに食らっていることに対する煩わしさからか、全体の装甲……重装甲虫からしたら重しになっていた自身にまとわりつくが剥がれる。そして、、、


「Boooooooon!」


「そうだよな、カブトムシならそりゃあ飛ぶよな!あと一撃入れて剥がれた装甲にダメージが通るか見たかったが、今まで攻撃してたのはただの外装か!くそ、今までは一般人の俺でもなんとか逃げきれていたが飛んでこられたら無理だ」


 森に入ればワンちゃんあるか?いや、あの巨体じゃ木ごと押しつぶされるし障害物が増える分俺にとっては不利だ。他のモンスターに擦り付けるか……いや、ここら辺のモンスターじゃかなわないし、奴の経験値になるだけか。まてよ、経験値か、確かあと1匹でレベルが上がるはずだ。レベルが上がればスキルが手に入るはず。悠里の言ってたことが真実ならレベルが1でも上がればなんとかなると思うんだが……そんなレベル上げる余裕あるか?


「ふむ、1匹でいいのか?それじゃあ、任せてくれ」


「え?誰?いや、本当に誰だよ!」


 渋いおじさん声で超絶ピンチな場面に助けに来てくれた、頭上の長内妖女おさないようじょというウソだろ?と思いたくなるような名前を見る限り、プレイヤーであるこの人は名前が伊達ではなくむしろ名前すらも霞む様な見た目をしている。具体的には幼女がスクール水着を着ていた。




 ..........へぇ、スク水ってあるんだ。美柑って書いてありますね、うん、おいしいよねミカン。


 ……しばらくの間思考停止。人間想定外すぎることを目の当たりにすると本当に動きが止まるものなんだな。これほどの想定外があればトプスさんにも勝てたかも。


「挑発!さ、何をするか知らないが1回であれば何とかなる。惚けてないで早く行きたまえ」


「すみません!助かります.....」


 いけないいけない、割と切迫した状況だったな。というか、よくよく考えるとあんな格好してる方が悪いような。お、運がいいなよし……


 その場をスク水幼女に任せ目的であるモンスター、具体的には木のうろに隠れているウサギ目掛け剣を構えて突撃する


「すまんな兎、俺の経験値になってくれ」


 突撃の勢いを生かしそのままのスピードでウサギに剣を突き刺す。


「っしゃ、レベルアップ!」


 初めてのレベルアップがこんな状況になるとは思わなかったが、どれ……

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