2話 ヘブし!
「大剣と斧は無しっと」
訓練所に案内された俺は好きな武器を使っていいぞと許可を貰ったため色々な武器を試していた。なんでも、ここにある武器は誰でも装備出来るようになる能力が付いているらしく、ステータスを振っていない俺でも普通に扱える。
「想像はしていたが、特大武器系統は扱いにくいな、取り回しが悪すぎる。やっぱ、反射神経が生かせる武器がいいよなぁ」
「おう、どうだ?良さそうなのはあったか?」
「今んとこ、特大武器意外は良さそうですね」
「ふむ、ならちと俺と手合わせしてみるか」
「え、いいんですか?」
これはまたとないチャンスだ、案山子相手でも多少は試せたができることなら対人相手で練習したい。そして、それが多分この世界でも達人級となれば受けるしかあるまい。
「おう!ま、おめぇさんは女神の加護を上げてねぇようだが、一応この訓練場では死ぬことはないし、一般人相手に俺が負けることはもちろんおめぇさんを怪我させることもねぇから安心してかかってきな」
それじゃあ、まずは片手剣を持って……
「ぜってぇ負けねぇ。」
上から目線でそんだけ言われりゃあ、負ける訳には行かねぇよな!
ただ心意気だけ格上に勝てるわけもなく……
「ッ!参りました。」
気がついたら喉元に剣が突き付けられていた。ということがもう何回も続いている。
様々な武器で試してもう10戦くらいしているがその全てで完封されている。いや、やはりモーニングスターじゃきつかったか。というか、騎士団になぜモーニングスターがあるんだ……イメージに合わん。
手加減されるのはわかっていたがまさか勝ち目がこれほどないとは。これは勝つ負ける以前の問題だわ、何よりやっぱステータスの差がキツい。相手はTASじみた動きをしているのにこっちは普通に動くしかない。こりゃ確かに一般人だわ。現実よりは理想の動きで動けるけど、なんて言うんだろ、チーターが加速チートを使っているような動きというか、まぁ、一般人からしたら理不尽な強さだ。
「どうだ?次やるか?」
「もちろん、1発だけでも当ててやる!」
TAS?チート?上等!ゲームによってはそれらを討伐することを目標にしてるやつらだっているんだし、俺がかなわない道理はない、何か限界はあるはずだしそこをつくだけだ。
「良い意気だ」
武器はさっきと同じ片手剣と……よし、あった!籠手で行こう。多分だがこの構成が一番いい気がする。最低限の重さを持った片手剣と素早い動きに対応するための籠手。トプスさんは技で勝負はしてくるが力はそれほど入れてこない。であるならそれを使わせてもうう。片手剣が槍でもいい気がするけど槍だとどうしても回避に手間取りそうだし何より槍での攻撃方法にまだ慣れていない。
「それじゃ行きますよ、READY……FIGHT!」
「おらっ!」
若い騎士の言葉に反応し真っ先に飛びだす。先手必勝!受け身じゃトプスさんの攻撃を受けきれないなら、攻めるのみ!
「セイッ!」
反撃されることを考えずただただ己の出せる限界の一振りを受け身を
自分でも分かるが、剣筋は特に綺麗なものじゃないはずだ。そりゃあ、今まで本物の剣なんて振るったことないし、剣道をやってた訳でもないからな。でも、本物の剣は使ったことがなくともこちとら、フィクションの世界で生きて来たんだ、今こそその成果見せるべき!
「ふっ、超究武神〇斬」
突きを含めた15連撃、めちゃくちゃ昔に
トプスさんは少し驚いた顔をしつつ15連撃全てを弾く。うん、分かってたけどそりゃあそうだよな。だが、ここからだ……所詮超級武神〇斬は前菜だ。
「ふっ!」
最後の攻撃を弾かれ、その隙にトプスが上段から頭に対して垂直に剣を振り下ろし、止めなければ頭をかち割ると容易く想像できる所まで剣が下ろされ、トプスが勝ちを確信した笑みを浮かべる。
(来たっ!)
この時を待ってた、トプスは振り下ろしでケリをつけるのが癖、もしくは敢えてそうしているのかもしれないが、想像通りことは進んだ。
振り下ろされた剣を左手の籠手で弾く……いや、逸らす。無視できないダメージを負いつつも勝ちを確信したトプスの顔が驚きで歪むのを想像しながら1歩距離をつめ、
「これで一撃だぁぁぁぁあ!」
がら空きとなった胴体に右手の片手剣をただ前につきだす。本来であれば当たらない、当たったとしてもダメージにすらならない一撃だが、油断し多少心が乱れた相手で当てるだけに限れば1撃入れることができるだろう一撃。
「フン!」
だがそれでも届かない。素人と達人ほどの差があるのに、たった
想像通りに事は進んだのにそれでも一歩足りないか、っく、回避間に合えっ!
「うぉ?!」
そう、これはゲーム……空想上の世界。想像したことや考えたことをそのまま具現化できる場所。現実ではなまった体ゆえ想像通り動かないかもしれないしそもそも不可能かもしれない。だが、ここはなんだ?そうすべてが空想上のゲームの世界。アバターにも膝が伸びた状態で大きくジャンプが出来ないなど動きの限界はある。だが、そんな人外の動きが咄嗟に出てくるはずがない。そして危機的状態で驚異的な反射神経と類まれなるVR適正によって出てきた故の咄嗟な
っしゃ!回避!からの、ただの左手パンチ!
ギリギリ避けきったと言うだけの無理な姿勢でよけたまま何とか放たれる、むちゃくちゃなパンチは果たして、トプスさんに特にダメージを与えたり体を崩させるということはなかった。だが、左拳に装備された籠手は確実にトプスさんに届いていた。
と認識すると同時に気が付いたら剣が首筋に突き付けられる。試合にはやはり負けてしまったが、宣言通り一撃入れることには成功した。それだけでも大きな進歩だ。
「やるじゃねぇか」
「ふ、一撃確かに入れてやりましたよ」
「いやぁ、参った。まさか、あの蹴りを回避してくるとはな」
「いやぁ、反射神経には自信があって。なんか、気付いたら避けてました、あはは」
「言うじゃねぇか、何だったらまだやるか?と言うかやるぞ、負けたままじゃ終われねぇからな」
ちょっと待って割ともう限界.....少し休ませて。てか、もしかして憂さ晴らしをする気では?いやいや、仮にも騎士団隊長がそんな本気で来るなんてこと……チラッ
「ふっ」(ニヤリ)
あったな……くっそ、こうなりゃ次こそは完全な勝利してやらぁ。
「準備はいいか?行くぞ!」
「ヘブし!」
顔に蹴り。
「おぼぉぁ!」
腹に蹴り。
「ゴンッ!」
頭に剣の腹。
「ドンガラグッシャン」
足掛けされて地面とキス。
本気を出したトプスさんにはまだまだ勝てないみたいだ……くそぅ。
「おっし、そろそろいいだろ。俺も部下共の世話しねぇと行けないからな」
「色々と助かりました」
めちゃくちゃボコボコにされたけどめちゃくちゃ参考になった。おかげさまでプレイスタイルも固まったしな。
「それから、少し待っててくれよ。」
そう言ってトプスはどこかへ行き、首をかしげているとそばにいた若い騎士が話しかけてくる。
「いやぁ、それにしても凄いですねコーラさん。あの隊長相手に一般人とも言えるあなたが一撃与えるなんて」
「いや、まぐれだよ。トプスさんが油断してたから当たっただけ、それもカス当たりで。その証拠にそれ以降は全く歯が立たなかったしな」
「いえ、そんな事ないですよ。確かに当てたのはあの一撃だけでしたが、その後も惜しかったり隊長の攻撃を結構避けたりしたりしてましたよね。私たちも今の鍛えた体であれば、コーラさんと同じぐらいの善戦ができるでしょう。ですが、以前の私が同じことをできるかと言われたら絶対出来ませんと断言できます」
「そう言ってもらえると頑張ったかいがあるよ」
それから若い騎士とたわいない会話をしてしばらく。
「済まない、待たせた。ほれ、これを持ってけ」
そう言って投げ渡された封筒と丸められた紙を受け取りその紙を見る。
これは……地図か。ほぉ、地図を見るとプレイヤーの持ってるミニマップが更新されるのか。よく見ると赤い点があるな。これは……
「その地図の印のところに行って、ダルマンという男に封筒を渡すといい」
職業クエスト
己ガ為ノ才能其レハ何ガ為ノ才能
おっ、クエスト発生したぞ。職業クエストか……受けるにしてもこれがどんな職業か分からないことには、決められないな。
「おめぇさんには向いてると思うが、決めるのはおめぇさんだ。とりあえずダルマンに話を聞いて、いろ、それからいつでもこの訓練場を使いたかったら来るといい。俺だけじゃなく、部下もまってるだろうからな」
「すごい旅人でしたね、負け続けているにもかかわらずトプス隊長に挑んでいくなんて」
「そうだな……お前はあの旅人、コーラの強みは何だと思う?」
「え、そうですね驚異的な反応速度と戦闘センスかと」
「それもあるな。だが違う。コーラの強さは
普通の人は自身の力で絶対に壊せない壁がありそれをよけて通れるのであればよけて通る。壊す必要がないのだから普通よけるだろう。旅人はなおさらその毛がある。だがコーラは壊せない壁にぶつかったら隅々まで叩いて回り一段と脆いところを見つけ永遠と叩き壊せないか試す。そして無理やり壁を壊す。もちろんそれを支えているのは天性の才能ではあるがそんな才能を持つ奴はちょくちょくいる。
どうかしている。どれほどの勝利への執念、自身の言葉への理念。そして勝つという意思をもっているんだろうか。これからの成長が楽しみだ。期待しているぞコーラ、そして旅人。
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