第15話
それぞれの顔は絵画のように額縁で囲われており、王と王妃が隣り合う下には、子供たちが年齢の順に左から並べられている。そして額縁の下には、一人ひとり名前が記載されていた。
ロアはそのうち、真ん中の子供を指差す。
「はい。これが王子の写真よ」
「ありがとう、助かるよ」
齢17歳の王子はロアの発言通り、青空のような
サフィラスは
「それにしても――血の繋がった兄弟にしては、みな雰囲気が異なっているね」
「……ね。まるで、
肌の浅黒い長男は、目鼻立ちがハッキリとした精悍な顔。目尻は高く、画像からその冷厳さが伝わってくる。そして眉が見えるほど短く整えられた髪は、母親譲りの透き通る青を携えていた。
彫りの浅い顔の次男は目蓋を閉じており、僅かにクセのついた長髪を後頭部に束ねながら、ひっそりと微笑みをたたえている。しかしその腹の底は読めず、こちらの警戒心を呼び起こさせた。
八重歯を覗かせる長女は未だあどけなさを残し、丸く大きな瞳を輝かせている。緩くウェーブかかった青い髪はツインテールにしており、両方の結び目には薔薇色のリボンを着けていた。
肌の白い次女は眉を下げ、物悲しげな表情を見せている。最年少でありながら最も蠱惑的なオーラをもつ彼女は、真っ直ぐに伸びたミディアムヘアの片側を小さく縛り、控えめなアレンジをしていた。
誰ひとりとして、同じ顔で写ることはなく。四者四様――さながら、喜怒哀楽を各々が担当しているようだった。
サフィラスの隣で、リベラも7人の顔を順番に眺める。国王から王妃、そして子供達と一巡したあと、最後に王妃に視線を戻す。
『やっぱりこの人、何度見てもお母さんに雰囲気が似てる』
背中まであろうストレートの髪を、三つ編みのハーフアップに整えた彼女。目尻の少し下がった瞳は、聖母が如く慈愛に満ちていた。
『……お母さんにお姉ちゃんがいたら、こんな人だったのかな。飾ってた絵、もってくれば良かった』
後悔を覚えながら見つめていると、ロアに顔を覗き込まれる。
「リベラちゃん、どうかした?」
「ううん、二人の言うとおり、みんな全然感じが違うなって。でも、お母さんが違うと良くないの?」
「それは――」
しかしロアは言い淀むと、一転して目を逸らす。すると、サフィラスが代わりに答える。
「親となる者の立場や思考により、善にも悪にもなり得る。この場合、明白な
「どうして?」
「国王及び王妃は国の象徴――つまり、その民族の特徴を継いだ、純粋な出自であることが求められる。それは王子とて、例外ではない。おかしな喩えになるけれど、“犬の王国”の象徴が、血統書付きの犬と捨て猫の雑種……犬のような猫だとしたら、リベラはどう思うだろうか」
リベラはきょとんとしながらも、少しの間考える素振りを見せる。そして、口元に手を当てて笑った。
「犬の王国……ふふふっ、想像したらすごく面白そう。けど、たしかに少し不思議かも? 犬の国の王様って聞いて、イメージするのは犬だから。それに、好きな食べ物や過ごし方とかも違うのに、ケンカはしないのかな」
「そう。外見だけでなく、文化や領土を護る全てを含めて、国は自国の人間で治めるべきなんだ。加えて、王子の母親は未だ公にされていないらしい。反感を買うには、十分過ぎる状態と言えるね」
「でも……こういうとき、絵本だったらみんな歓迎してくれるのに。大人は許してくれないの?」
ネーヴェはリベラの肩に上ると、力添えするかのように短く鳴く。しかしサフィラスは、変わらず冷淡に答える。
「……リベラが希望するほど、現実は甘くないよ。むしろ、絵本と対極の位置にあると言って差し支えない。一介の村娘が王子に見初められることも無ければ、蔑まれていた雛鳥が、成長の果てに最も強い鳥になることも無いからね」
「――そう、なんだ」
リベラはうつむくと、手のひらに下りてきたネーヴェを呆然と見つめる。対してサフィラスは、一瞬顔を曇らせると仮面を着ける。
「……それでもなお、希望を見出したければ。現実を超える
「辛い状態から、抜け出すためには――」
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