第14話
サフィラスの回答に、リベラは悪戯っぽく微笑む。
「ふふっ。私、酸っぱいものも好きだよ?」
「おや。紅茶には毎回砂糖を加えていたから、まだその
「も、もう! それとこれとは別だもん!」
赤面したリベラは、両手のこぶしを縦に振る。しかしサフィラスは構わずボトルのキャップをしめると、テーブルの上に置き会話を本題に戻す。
「ところで、話を逸らしてすまなかったね。キミも知りたいのだろう? 私が誰と何を話していたか、その一部始終を」
「……教えてくれるの?」
「勿論。先はただ、どう伝えるべきか思案していただけだったんだ。では、聞き耳をたてているロアも此方に来てもらおうか」
サフィラスが視線を送ると、ロアは本を閉じる。
「……あらやだ、バレてた?」
そしてネーヴェを両手で持ち運びながら、いそいそと二人と同じソファーに腰を下ろした。
「というより、隠す気もなかっただろう。可能であれば、明日まで時間が欲しかったけれど……二人同時に催促されたからには、明かさなければね」
サフィラスは
最後に、王子と王の関係性について幾ばくか収穫を得られた旨を伝えると、サフィラスはリベラとロアに疑問を投げかける。
「――というのが、事の内容だ。二人とも、現時点で何か質問はあるだろうか」
ロアはテーブルに片肘をついて頭を乗せると、重い溜め息をつく。
「ツッコミどころしかないわよ……王子側についても国王側についても、一波乱起きることは避けられないじゃない。それに……あのニュースはホントだったのね」
「何かあったのかい?」
「さっきの図書館で、髪や瞳の色で人種が分かるっていうのは本で読んだわよね?」
「ああ。国王は群青の髪に、紅梅の瞳だった。スティアを象徴するに相応しい純血だったよ」
ロアは目を伏せると、姿勢を正す。
「……そう、そこが問題なのよ。彼の嫡子は5人いるんだけどね。厄介なことに、王子だけ瞳の色が違うの。ちなみに、王妃の毛髪と瞳の色は国王と同じよ。透き通るような空色の髪に、ローズクオーツみたいに綺麗な瞳をしているわ」
「成程。つまり、その子のみ腹違いということか」
するとリベラが首を傾げ、単語を復唱する。
「はらちがいって?」
「父親は同じだけれど、母親が異なるという意味さ」
「う〜ん……? 一人のお父さんに、お母さんがたくさんいるってことなの?」
「……ああ、そう捉えてもらって構わないよ」
サフィラスの答えに、リベラは疑問符を浮かべつつも頷く。ロアは苦笑を一つすると、再び本筋に戻る。
「ええ。だから王子は兄弟や親族、果ては使用人からも忌避されているみたい。国民は――容認する人も否認する人も、どちらもいるようね」
「……そうか」
「まあ、多少の情報の誤差はあるでしょうけど。それでもディオス村長の手紙の内容からして、概ね正しいハズよ」
サフィラスは、手紙の一部を思い起こす。「国民に一切その姿を見せなくなった、親友――
『彼女……思えば、その名は記載されていなかった。王妃のことを指しているのだろうか。だとすれば、王が話題を一切口にしなかったことにも合点がいく。しかし、何かが引っかかる……』
サフィラスはひとまず推理を中断すると、ロアに情報を催促する。
「時に、王子の風貌を教えてもらえるだろうか」
「えっと――確かウェーブのかかった青い髪に、黄金色の瞳だったかしら。ちょっと待ってて、今調べてみるわ」
ロアはテーブルから端末を持ち上げると、起動から画面の表示までの一連の流れを、慣れた手付きで行なう。そして一分もかからぬうちに、空中には7人の顔が浮かび上がった。
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