第13話

 難しい顔をして頬に手をあてるロアに、リベラも表情を曇らせる。


「ねえ、私たちにも何か出来ることはないかな? イルミスやライア村で、みんなで役割分担したみたいに」

「ええ、きっとあると思うわ。どんなに遅くても今日の夕方には戻るって言ってたから、その時に聞いてみましょ」

「うん! よーし、今日の晩ごはんは何作ろうかな」


 リベラが中身をキャップに注ぐと、ネーヴェがポシェットから身を乗り出す。


「わわっ! ま、まって、こぼれちゃう……!」


 リベラは急いでベンチにキャップを置き、ネーヴェも降ろす。大人しくなったネーヴェは、キャップを両手で器用に傾けながら飲み始めた。


「ふふっ、おかわりもあるからね」


 ネーヴェに微笑みかけ、リベラもボトルに口を付ける。


「んんっ、思ったより酸っぱい……! けど、すごく美味しいね」

「気に入ってもらえて良かったわ。スティア産のフルーツを10種類も使ったミックスジュースなんだけど、輸出してないからここでしか飲めないのよ」

「そうなの? じゃあ、次の場所に行くまで毎日飲もうかな」

「美容にも良いし、アリだと思うわ。けど、お腹壊さないよう程々にね?」


◇◇◇


 会話は一段落し、二人の間には静寂が訪れる。しかしネーヴェがポシェットに戻ると、リベラは遠慮がちに言葉を漏らす。


「……ねえ、ロア。ずっと気になってたことがあるんだけど、聞いてもいい?」

「んー?」

「村では色んな髪や目をした人がいたけど、イルミスやスティアは、同じ組み合わせの人ばかりなのはどうして?」

「それはね、遺伝子――身体を作る情報が、国ごとに違うからなの。だから自分と同じ見た目をしている人は、出身も同じだと思ってもらって間違いないわ。そして、村に色んな見た目の人がいた理由は――」

「……!」


 薄々感じ取っていた事実が遂に裏付けられ、リベラは目を見開く。そして、森で自身に剣を向けてきた人物を呼び起こした。


『そっか……だからあの怖いおじさん、私のことを知ってたのかな。でもそうだとしたら、私はもう生まれた国に帰れないのかな……』

「リベラちゃん? どうかしたの?」

「あ――ううん、なんでもないよ。いつかロアの生まれた国にも行きたいなって。そういえば、ここからどのくらいのところにあるの?」


 リベラの神妙な視線が向けられると、ロアの瞳が僅かに揺らぐ。


「……そうねえ、今まで移動してきた距離の何倍も遠いところにあるわ。どのくらいかかるか分からないけど、辿り着いたその時は、アタシの実家に案内しちゃおうかしら。しばらく帰ってないから、お部屋が荒れていたらごめんなさいね」

「ううん、その時はお片づけ手伝うよ」

「ホント? ふふっ、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかしら」


 ロアは微笑むと、空になったボトルをダストボックスに投入した。


◇◇◇


 サフィラスは約束通り、陽が沈む頃に戻ってきた。しかしずっと思案顔を維持したままなため、リベラはソファーに座りながら遠巻きに見守る。


『サフィラス、誰と何を話してたんだろう。教えてくれるまで、待ってたほうがいいのかな』


 それは、食事中にそれとなくロアが聞き出そうとしていたが、てい良く躱された質問。


『……ううん。きっと、待ってるだけじゃだめなんだ。 ――私からも、聞いてみよう』


 リベラは心の内で自身を鼓舞すると、冷蔵庫からボトルを一本取り出し、サフィラスの隣に座る。


「えっと……今日は色々あって、疲れちゃったね」

「……ああ、本当に。リベラ達はあの後、公園を散歩していたらしいね」

「うん。噴水を見たり、公園の中をぐるっと一周したりしたんだ。でね、そこでジュースを飲んで休憩したんだけど、それがすごく美味しくって。よかったら、サフィラスにも飲んでみてほしいな」


 自然に会話を運んだリベラは、ここぞとばかりにボトルを差し出す。


「――ありがとう。では頂くよ」


 サフィラスは一瞬伸ばした手を止めるも、素直にジュースを口にする。その直後、顔を僅かにしかめた。


「っ、これは……中々酸味が効いているね」

「おいしくなかった?」

「いいや、美味しいよ。ただ、想定と異なる味で驚いてしまっただけさ」

「どんな味だと思ったの?」

「そうだね――リベラが好む甘いものかと」

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