3 のんびり 12月22日
「のんびりし過ぎーー」
リビングのソファーでうたた寝をしているとぺちぺちと頬を叩く小さな手。
艶のある真っ赤なほっぺをぷうと膨らませた幼児だ。
今日は職場で大量の本を運んだ。
年末の大掃除。溜まりに溜まった資料や読み物などをここぞとばかりに移動させる。本は以外に重いのだ。処分ではなく移動とのこと。積み上げられた本は紐で拘束されることなく運ぶことになり、腰に来る、足に来る、腕にくる。
わたしは疲れている、君のように若くはないのだと反論すれば、お供のサラサラふわふわ、もふもふの漆黒の毛を餌にして懇願する。そう、早くアレを仕上げろと。
ブラックダイヤモンドのような希少なもふもふにかなう筈もなく、こくりと頷けば奴らはふふと笑ってわたしの手を引いた。
気づけば淡い光に満ちた洞窟。
ぴちゃんと垂れ落ちる雫。くぐもった草のような香り。徐々に暗くなる視界に幼子は、発光する光の玉を宙に浮かべた。細く太く変化する道に、ぬかるみで滑りそうになりながら恐々と重い身体で歩いていく。
幼子の後ろにわたし。その後ろに漆黒の狼。
「答えまで、あと三日?オレ、ちゃんとカウントダウンできるよ」
急に足を止めて振り向いた幼児は嬉しそうに笑った。そしてどこに持っていたのか、小さなカゴを差し出した。中に入っていたのは、つるんと丸く整えられた美しい石。
「ねぇ、オレ、今、必要なの。いくらになる?」
いくらにって、いかに作者だとあろうと異世界のお金は持ち合わせていない。だが、狼狽えてポケットを弄れば、カチリ。不思議なことに金貨が1枚出てきた。
「わぁ、金貨?! すごい! 幸運のアイテムだ!ピカピだね。綺麗だね。嬉しいな」
一枚の金貨を両手で持ってくるくると踊ってみせた幼児は、満面の笑みを湛えてふっと消えてしまった。
何だったのだろう。今のは夢? 予感?
二十二分。
時計の針はたった二十二分先を示していた。
わたしは久々にポチとパソコンを立ち上げると、熱いコーヒーを淹れ、滞っていた作品と向き合う。
12月22日
ブラックダイヤモンド
成功・カリスマ・不屈などを意味するパワーストーン。ダイヤモンドなので4月の誕生石になる。
全ての小話に誕生石を散りばめています。
あなたの誕生石は見つかったかな?
読んで幸せを引き寄せて!
そんなささやかな願いを込めて。
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