4 レストラン  12月21日


 レストランを予約した。

 お子様NGのステーキレストラン。


 駅近くの川沿いにあるそこは異国ムード満載のジャングルのような店内で、そこかしこに小さな動物フィギュアが置かれている。


 中央には大きく輝く鉄板が鎮座して、二人のシェフがクルクルとソルト・ミルを放り投げるパフォーマンスをしながらステーキを焼く。


 奥のテラスの向こうには川が流れていて、無機質なコンクリートの護岸が、しなだれた南国の木々と、施されたイルミネーションで抜群の雰囲気を醸し出している。


 鉄板と通りが見える小さなテーブルで食前酒と前菜をいただいた。

 それぞれのグラスに動物のフィギュアが添えられ、ただそれだけで気分は一気に非日常の世界。

 わたしのグラスにはサル。不幸が去る、勝利という意味のまさるであり、夫のグラスには跳ねる意味をもつウサギだ。どちらも幸運の動物で、絶妙な演出に饒舌になった。

 次に鉄板の前の席に誘導され、素晴らしいパフォーマンスとステーキを味わう。昔見た印象よりも随分おとなしく感じたけれど、炎とスリルの共演は枯れ始めた心を潤した。

 最後は川とイルミネーションが演出する席でデザート。久しぶりに堪能したのはここの人気コースである。


 ドレスでもスーツでも、夫のようなジーンズでも、何故かフィットする使いやすさに、このレストランの人気ぶりが頷ける。

 ひょんな拍子で思い出し、十数年ぶりに予約をしたのだが、思い出はプライスレスで大満足の一夜だった。


 

 異世界小説を書いていると、その食事シーンが演出の見せどころであり、わたしも書きたいネタがあるのだけれど、どうもわたしのぽちぽち指は、なかなかにそこまで行きつけない。やはり未熟なのだと省みれば、小説に洗脳されているなと夫に笑われた。


 クリスマスまであと四日。イブまであと三日。

 一足早いプレゼントを貰った気分で店を後にする。

 二十一時。

 うん、すごく素敵な時間だ。


 本当ならば、もう一件、小洒落たバーにでも寄りたいけれど、あいにくの田舎暮らしは、もう充分に深夜の枠なので、ムーンストーンのような濁った月を探しながら帰路に着いた。


 うふふ。

 わたしの気まぐれに、までも来てねと振り返れば、立ち止まって空を眺めていた夫の手が随分しわがれてきたことに気づく。


 12月21日

 

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