第3話
そして彼が失踪してから3年が経った。
今でもあの広告の裏に書かれた『必ず』という言葉に縋って生きてしまっている。
「げっ、雨じゃん。洗濯機回しちゃったよ〜…」
寝起きにパジャマを突っ込んで回してしまった洗濯機を今更止めることはできない。今取り出しても濡れているだろう。
「……あそこには極力行きたくないんだけどな〜」
あの忌々しいコインランドリー。
しかし家に乾燥機はないし、室内干しは避けたいから仕方ない。
ピーッという甲高い音と共に無情にも洗濯機が終了を告げる。
ため息を吐きながら洗濯物を袋に詰め、鞄を肩にかける。
もう2人だった時の洗濯物の重さも思い出せない。
「こんなに忘れられなくなるなんて」
自分がこんなに人に執着するとは思わなかった。
それもこれもあの猫を拾わなければ気付かなかったことだった。
傘を差してコインランドリーへの道を歩く。
豪雨でもなければ小雨でもないが、傘がないと濡れてしまう。
そんな微妙な天気にイライラしながらコインランドリーに入ると、そこには誰もいなかった。
その事実にどこか落胆している自分がいた。
「…変に期待して馬鹿みたい」
もう幻影を追うのをやめよう。
こんなの惨めになるだけだ。
ため息と共に洗濯物を乾燥機に詰め込む。
お金を入れてボタンを押せば回り出すが、雨の中一度家に帰る気にもなれず置いてある椅子に腰掛ける。
ここに来ると嫌でもあの猫のことを思い出す。
別に恨んでなんかはない。
彼の人生だ、彼の好きなように生きれば良いと思う。
ただ、『必ず』なんて期待させるような文言だけは許せない。
「はぁ…考えるだけ無駄だわ。やめた」
1人なのを良いことにぶつぶつと文句を垂れ流しながら置かれている雑誌を手に取る。
興味がある訳でもないので雑に流し見ながら欠伸を噛み殺す。乾燥機のゴウンゴウンという重い音が眠気を誘ってきてしょうがない。
最近疲れていたせいか次第に瞼は閉じていく。
力が抜け雑誌が手を離れていった時、遠くから猫の鳴き声が聞こえた。
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