第6話 「どうして? どうして? どうして?」

 どうして? どうして? どうして?


 ……このノートが手元にあってよかった。書いているとちょっとは落ち着くような気がする。


 名前書いておこう。ここでこの文字が読めるのは、私だけだし。


 時々〈入寮式〉で、準備されていなかったものが拾われてくることがある、って聞いたことがある。


 誰かの〈忘れ物〉を〈入寮式〉の担当者が見落としてたと思われてたんだけど。


 違うわ。


   ◆


「なあに? その文字?」


 リンナが話しかけてきた。


「私の国の文字」


 この赤毛のツインテール、リンナに会ったときには驚いた。

 F女の制服着てるんだもん。紺のブレザー。チェックのスカート。臙脂のネクタイ。紺のハイソックス。


「これと同じかな?」


 胸に名札がついているんだけど、リンナは読めないから気にしてない。

〈幸田ミナミ〉って書いてある。

 聞いたことないから、ずっと前の卒業生かもしれない。

 でも、どうしてその制服がここにあるの? 幸田さん、どこにいるの? それとも制服だけがここにあるの?


「あなたと同じ、この服、服だけが空から降ってきたのよね」


 そう。

 私は空から降ってきた。そしてなぜか怪我一つない。


「時々、見たことないものが降ってくるの。福を授けてくれるっていうから、みんな大切にするんだけどね。人が降ってきたのは初めてだわ、サツキ」


 私は城戸橋サツキ。

 F女学院高校二年三組。鈴蘭寮は二〇五号室。


 ここは異世界みたい。

 そして。

 おそらくだけど、鈴蘭寮の一部は時々、この世界につながっている……


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