第4話 入寮式②
それは、なんでもないノート。
購買で売ってるやつ。
表紙の色はピンクなんだけど、日に焼けて褪せてしまって白っぽくなってる。
北さんが続ける。
「入寮式は、指定された場所に行って、そこにあるものを取ってくるの」
また矢口が割り込む。
「あたしの組も、洗濯機の脱水槽にお菓子が入ってた」
滝川さんも付け加える。
「だいたいお菓子なんですよ。飲み物の年もあるって聞きましたけど」
〈入寮式〉、試練を課されると聞くと怖そうだけど、同室の親睦を深める行事だということね。
「私たちはお菓子も見つけたけど、これも出てきました。
見てください」
北さんが、おもむろにノートをめくった。
「……ふぇ?」
変な声でちゃった。
◆
寮母室でコーヒーを飲んでいた留守番の神坂は、先ほど自習室から出てきた四人にしおらしく挨拶をされた。
「こんにちは」
ひとりは遊びに来た通学生だ。入館者簿に名前がある。寮生は、見かけた相手には挨拶をするルールなので、少し雰囲気を味わっているだろうか。
「……てか、あの子達、どこ行くのよ?」
向かって行った方向には、非常口しかない。
「……〈入寮式〉、終わったんだっけ?」
そこに気がつき神坂は、ふうん、と何かを得心する。
「いってらっしゃーい」
退勤時間まで、まだ長い。
◆
寮の天井裏に隠されていた日記! とか、詩! とか、ドラマとかマンガとかにありそうじゃない?
「でもね。あれは〈おはなし〉なんですよ」
滝川さんが、醒めた口調だ。
「そうそう。燃やして差し上げたほうがいいのがほとんどだよね」
矢口までそんなことを言う。
「だいたい、読むに耐えないひとりよがりの想いが綴られていて、本人も卒業して正気に返っているでしょうから読み返したくないと思いますよ」
中学から寮生だった二人は言うことが違うなあ。
「梯子だよー」
北さんが梯子を担いできた。
「開けてくるねー」
突き当たりに非常口がある廊下のすみっこ。
見上げると、天井裏への
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