第34話 森の王討伐、完了

 ジーメでやらなきゃいけないことはあらかた終わった。

 森の王は討伐したし、湖の呪いも解き放った。

 湖の精霊に捧げる祭りも企画したし、魚の養殖についても教えたし、干し草も作ったし……私働き過ぎではないですかね!?


 まあ、結果としてエルクのお肉はとっても美味しかったし、念願の牛肉も食べられた。

 森の王は馬鹿げた大きさだったから夜もエルク肉をご馳走された。

 ちょっとわがままを言って、挽肉にしたお肉で自分でハンバーグを作って、それをパンに挟んでなんちゃってハンバーガーにしたら大好評だったよ。


 エルク肉、しみじみ美味しい……いい草を食べて育った肉って味がする。水草とかも食べるらしいんだけどね。

 ジーメではすっかり牛肉よりエルクの方に魂持ってかれちゃったなあ。


 その夜、街長さんの家でフランカさんと寝る準備をしながら、私は気になってたことを思い切って尋ねてみた。


「いいんですか? 無理矢理フランカさんとザムザさんにくっついてきた私なのに、アニューズまで同行してくれるなんて」

「いいのよ」


 枕をポンポンと叩いて形を整え、フランカさんは街長さんの奥さんのご厚意で貸してもらった温かそうな寝間着に着替えた。

 私も似た様なものを貸してもらってる。ネグリジェみたいに、頭からすぽんと被る飾り気のない長い服だね。

 もしかしたらこれは、カリンちゃんかイルゼちゃんが着た物なのかも。


 ベッドはひとつだけど、なんかフランカさんとくっついて寝るのは初日から当たり前みたいにしてたから、全然違和感ない。

 先にベッドに入ったフランカさんの隣にもぞもぞと潜り込んで、身を寄せる。ジーメは寒いところだけど、こうして布団の中で誰かとくっついてると快適だね。


「生け贄をやめさせて呪いから街を解放してくれたあなたに、私は凄く感謝してるの。多分、何も言ってないけどザムザもね」

「ザムザさんもフランカさんも、この街の人じゃないのに?」

「そうね……だけど、呪いとか生け贄とか、そういうものが私もザムザも大嫌いなの。ルルが怒ってくれて、力尽くでやめさせてくれて、なんだか胸の中でもやもやしてたものがすっきりしたわ」


 カーテンの隙間から差し込む月光に照らされたフランカさんの顔は、とても穏やかで。

 私は「とにかくこの呪いをどうにかしなきゃ」って気持ちでただ闇雲に動いて、「この街の人のため」とかそういうことは実はあんまり考えてなかった。


 でも、結果的にそれがフランカさんとザムザさんの心にある何かを軽くできたとしたら良かったな。


「それに、もう冬になるのにこんな寒いところにいる理由もないじゃない? オルレーデ王国はもっとずっと南の方で、ここらよりも冬は過ごしやすいところよ。実を言うとね、寂れた農村って私は大嫌いなの。久々にアニューズに腰を落ち着けて仕事をするのも悪くないって思ってるわ」

「ああ、それは凄く納得できます」


 フランカさんの体温が心地よくて、とろとろと眠気が忍び寄ってくる。

 うん、これから冬なのに寒い地域にいる必要ないのはド正論。

 私も今回の森の王討伐の報酬が入ってくるから、ふたりにおんぶに抱っこの状態は避けられるし――。


 あ。

 エイリンド様はどうしよう。

 あの調子だとこれからも付いてくるよね、当たり前の様に。


「暖かいところに行くのは、私も大賛成です。でも困ったな、エイリンド様がずっと付いてきそう……」

「いいじゃない、付いて来てても。今回はルルの邪魔をしたわけでもないし、あなたのことを大事に思ってるのは間違いないわ。それに、エルフなんだから無理に街中に入らなくても自力で生きていけるんじゃない?」

「あはは、野生動物ですか」


 街の近くの森で獲物を狩って換金して、野山で手に入れられない必要な物だけそのお金で買って……うん、生きて行けそう。無理ならメイデアに帰るでしょ。


「なるようになるし、なるようにしかならないわ」

「そうですね……」


 ふわあ、と私の口から大あくびが漏れる。それを切っ掛けにしてフランカさんは私の頭を撫でると「おやすみなさい」と言った。


「こうして小さいあなたと一緒にくっついて寝ると、姉さんと一緒に寝てた頃を思い出すの」


 フランカさんのお姉さん……ええと、なんか前に話を聞いた覚えがあるなあ。どんな人だっけ。

 だめだ……眠くて思考がまとまらない。


 その晩私は、私と同じ年頃のフランカさんに似た少女と、幼いフランカさんが手を繋いで歩いている夢を見た。



 翌日は交流のあった街の人たちに挨拶をして、感謝の言葉をたくさんもらった。街長さんからはゲルツの冒険者ギルドに宛てた、依頼の完了報告書ももらっている。


 ここに来たときと同じ道を、今度は逆の行程で進む。海流の関係で普通は歩いた方が早いけども、風の精霊シルフィードに頼んでちょっと行きより時間は掛かったけどゲルツまで船で帰ることができた。


 そして、冒険者ギルドで10人揃って完了報告して報酬を受け取る。

 今回は怪我人はひとりも出なかったし、カタリーナさんを初めとして他の冒険者さんたちとも仲良くなれてよかったよ。


「じゃあ、コシークまでの船券を買うか。……4人分」


 ザムザさんが溜息交じりに付け加えた一言で、私は思わず隣に立つエイリンド様を見た。

 そういえば、この人は討伐隊じゃなかったから1ゾルも稼いでないんだよね。しかも森の王討伐の時にはいなかったから実質何も働いてないし。


「メイデアに帰らないんですか? エイリンド様」


 ダメ元と思って訊いてみたら、あからさまにショックを受けた顔で見られて、ザムザさんに仲裁されたよ。

 あれだね……ザムザさん、根本的にお人好しなんだわ。

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