第33話 あの技術が欲しい!!
干し草作りをした日は、それが終わったら街長さんと街おこしについて話し合った。
酪農と漁業だけじゃなくて、収益率だけにこだわらずにいろんな作物を作って気候の変化とかに対応すること。
具体的に言うと、小麦とかライ麦とかジャガイモだね。
水産資源が減りすぎない様に、養殖をして管理するのもだけど、獲る量も決めるとか。
街長さんはすっごく熱心に私に質問して羊皮紙にいろいろと書き留めていて、途中から私の隣にいたエイリンド様は微妙な顔で私を見つめていた。
「その考えはどこから思いついているのだ?」
エルフの里だけしか知らない身ではまず思いつかないアイディアの数々に、とうとうエイリンド様がツッコんできた。
まあ、簡単に言うと前世の知識だけども、今の私には一言で済ませられる便利な言葉があるからこれでごまかそうね。
「エルフの秘術です!」
ない胸を張って堂々と答えると、エイリンド様は深くため息をついて「どれだけの叡知がおまえの中に……」とぼやいている。
まあ、無制限にアクセスできるわけじゃなくて、関連して思い出さないと活用できないけどね。今回も、祭りから美女の精霊、ミスコンと順序立てて連想していってるわけだし。
その日も街長さんの家にフランカさんと一緒に泊めてもらい、お待ちかねの朝がやってきた。
そう! ついに! 牛肉を食べられる!!
聞いた話しでは、牛一頭を解体するのはかなりの時間が掛かるらしい。だけど今回は解体を進めつつも、私が食べる分だけ先に確保しちゃえばいいからって早く用意できたそうだ。
お昼頃にヘルマンさんの家に呼ばれて行ってみると、塊肉が焼かれていて、切り分けられているところだった。
うおおおおおおおおお!!!! ローストビーフじゃないですかー!!
それ以外にも昨日のエルクの様にシチューの様な煮込みも用意されていた。
ザムザさんとフランカさん、そしてカタリーナさんも来て、ヘルマンさん一家と一緒に食事が始まる。エイリンド様も一緒だけど、見てるだけ。
「いただきます」
お肉に向かって手を合わせて私が言うと、全員が不思議そうに私のその仕草を見ていた。
「これは、私たちの食べ物になる動物や植物とか、全ての命に対して『命をいただきます。ありがとう』ってお礼を込めてるんです」
前世日本の考え方だけど、私にはやっぱり染みついてるんだよね。
「さすがエルフ、命に対する考え方が違うんですね」
「素敵な言葉ですね。私も食べ物に感謝しましょう。いただきます」
ヘルマンさんは感心してるし、カタリーナさんは私の真似をする。
いや、エルフ的思想じゃなくて日本人的思想だよ……。
さーて、ローストビーフ……なんだけど、なんで薄く切られてるのかが食べた瞬間納得できた。
肉が、硬い……。これは厚切りになってたら顎が疲労する奴だ。しかもローストビーフって低温調理だよね? それでこの硬さなのかぁ。
お肉の風味は、乳臭いと言ってしまえばそれまでなんだけど、いかにも赤身の牛肉って味がした。
……うん、こう言っては失礼だけど、輸入物の脂が全然のってない安いお肉の味……。
牛肉をずーっと楽しみにしてただけに、がっかり感が凄い……。
乳牛だから、脂の差しが少なかったり、乳臭かったりするのは仕方ないよ。
でもこの硬さはどうにかなるよね。
「本当だったら捌いてすぐ食べると言うことはしないんだけども、ルル様たちも長居はできないだろうと思って」
ヘルマンさんの奥さんが、ちょっと申し訳なさそうに私のローストビーフにソースを掛けてくれた。タマネギを使ったソースで、お肉を柔らかくしたりする効果があるのかも。今掛けても遅いけどね。
そっかあ、いつもは捌いてすぐには食べないんだ。今まで食べてきたお肉、全部捌いたばっかりで食べてきたから気づかなかったけど、本来ジビエとかって熟成させて食べる物だよね。
つまり、私に今必要な技術はエイジングだ!
確か乳牛もエイジングでうまみが増して、タンパク質が分解されてアミノ酸になることで美味しくなる。
しかし、悲しいかな! 拠点も肉屋の知り合いもいない私にはエイジングはかなり難しい。いや、お肉屋さんの知り合いはこれから作ればいいんだけど。
「ああー、このお肉、もっと寝かせて熟成させられたら美味しく食べられたのに……牛さん、ごめんねえ」
シチューの中に入っている牛肉を噛み噛み私がぼやくと、スプーンを持つ手を止めてカタリーナさんが大きな目で私を見つめた。
「お肉を寝かせる……つまり、時間を経過させるの? だったら時間魔法でなんとかなるんじゃないかな?」
「時間魔法?」
「聞いたことがないな」
私が聞き返すと、エイリンド様も首を傾げる。ということは、エルフの魔法体系にない魔法なんだね。
「ねえねえ、ルルちゃん! アニューズにおいでよ。ちょっと遠いけど、魔法学園都市なんだよ。魔法の研究をしてる人がたくさんいて街ができてるの。時間魔法は難しいから研究してる人は世界でも少ないみたいだけど、あそこなら絶対いるよ」
「魔法学園都市!? え、学校に入るってことですか?」
カタリーナさんの提案に、めちゃくちゃ心惹かれながらもちょっと引っかかる。学費って点がね!
「学園もいくつかあるけど、個人で研究してる人もいるから、うまく時間魔法を研究してる人がいたらその人の弟子になる方法もあるよ。私は学園を出てるけどね」
「へえ、カタリーナさんもそこにいたことがあるんですね」
「魔法の才能があるってわかったら、多少無理してでも親はこどもをそこに送り出すよ。魔法使いは貴重だし儲かるからね。成績が良ければ奨学金ももらえるし」
魔法学園都市アニューズ……行きたい!
そこで時間魔法を身に付けたい! もちろんやることはお肉のエイジングなんだけど!
私がザムザさんとフランカさんを見ると、ザムザさんは空中に指で線を描き始めた。
「アニューズがあるオルレーデ王国は隣の大陸だ。行くにはゲルツから船で定期便がコシークまで出てるな。近いわけじゃないが、行けないほどの遠さじゃない。そもそもカタリーナもそっちから来たって言うんだしな」
「久々にオルレーデに行くのもいいわね。――ルル、心配しなくても一緒に行くから大丈夫よ」
フランカさんとザムザさん、そこまで一緒に来てくれるの!?
なんていい人たちを捕まえたんだろう、私!
「私も久々にアニューズに行こうっと! ルルちゃんがどんな魔法を使える様になるのか楽しみ! ルイゼとユッタにも話をしてきます!」
あれ? カタリーナさんも付いてくる流れだね、これ。
エイリンド様も付いてくるだろうし、賑やかな船旅になりそう。
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