第13話 お金を手に入れよう

 注)日本に於いて放送禁止用語とされている言葉が使われております。

 その選定理由は部落差別が下敷きにありますが、この作品は異世界を舞台にしており、当該の差別問題は作品中に存在しません。

 よって、そのままの記載とさせていただきましたことをご了承ください。

__________________________


 鹿を担いで移動しようとしたとき、急にお腹が痛くなった。

 覚えのある痛みは、お腹を下したときのやつだ。


 こ、これは、脂負けってやつか。

 今まで草ばっかり食べて、動物性脂肪なんて摂ってなかったせいでお腹が付いていかなかったのか。

 ガクリ……。


 エルフの食生活がつくづく恨めしいわ。

 好きなように肉を食っただけでお腹を下すなんて、惰弱にも程がある。



 次の街は、ザムザさんとフランカさんが依頼を受けたザドルガ――の手前の街、ターチィ。

 ここで道がふたつに分かれ、北に向かう道と、東の港に向かう道がある。東に向かうと港に行く途中でザドルガに着くと、簡単な地図で教えてもらった。


 街に入るにあたって、私は頭巾で耳を隠せば人間の振りができるんだけど、エイリンド様については困ってしまった。


 まず、頭巾を持ち歩いていない。論外ですわ。まあ、元々頭巾をしない人ではあるんだけど。

 その上、髪でうまいこと耳を隠しても、凄い美形なのは隠せないので、やたらめったら目立つ。


「いっそのこと、頭にすっぽり麻袋でも被せません?」


 ナイスアイディアだと思ったんだけど、エイリンド様は物凄いブーイングをしたし、ザムザさんたちは力なく首を振って「余計怪しい」と切り捨てた。


 何をしても目立つのだ。それなら、もう隠す必要もないのでは?

 私たちは大分やけっぱちな結論に達し、エイリンド様は何も隠さないことになった。

 ついでに、私も耳を隠すのはやめた。横に仏頂面エルフがいるから、私はせめてにこやかにしなければ。少しでもエルフの対人評価を上げておきたい。



 街の人たちは私たちを見て、案の定物凄くざわついた。遠慮もなく指さして「エルフだ!」って叫ぶ人もいる。

 エイリンド様は不快そうにしているけど、私はカルビン村よりも賑わっている街道の街に興味津々だ。人間に珍しがられるのは想定内だったので動じない。


 まず向かったのは、街の中でも外れの方にある屠殺とさつ場。家畜や狩られた野生動物はここに持ち込まれて、屠夫とぶと呼ばれる職人が解体を行う。

 利用できる毛皮を綺麗に剥いだり、肉を部位ごとに切り分けることをここでしていて、肉屋や革なめし職人にはここから流通するのだとか。


 カルビン村なんかは規模が小さすぎてこういう専門職がいなかったんだよね。やることがやることなので、こういう業種は街外れにありがちだ。


 屠夫のおじさんは私たちを見て凄く驚いていたけども、「街で使うお金が欲しくて」と正直に言って鹿を買い取って欲しいと頼むと、急に職人の目になって鹿のチェックを始めた。


「新鮮な鹿肉だな。内臓も綺麗に抜かれてて、内側に汚れがない。ふーむ、首に矢を一発か……エルフのお嬢ちゃん、なかなかの凄腕だな」

「そうだろう! 私が手塩に掛けて育てた弟子だ! もっと褒めていいんだぞ!」


 私が褒められたのにドヤァしているエイリンド様の足を踏んで、「そこに足があるのが悪いんですよ」と黙らせてからおじさんにお礼を言う。


「毛皮も使うと思って、できるだけ大きく取れる部分に影響がないようにしました」

「そこまで考えるのはありがたいねえ。これなら、1万ゾルでどうだい?」


 私には全くそれが相場的にどうなのかとかがわからないので、ザムザさんの方を向いたら「大丈夫だ」と頷いてくれた。やっぱり人間と一緒に行動してて良かった! 私ひとりだったらこういうところで詰んでた!


「こういう街の宿が大体4000ゾルくらいよ。1万ゾルあれば、宿に泊まって、十分な食事をしてもお釣りが来るわね」

「なかなかいい値段になりますね。それじゃあ、その金額でお願いします」


 ここから屠夫の手間賃が掛かって、それがお店に並ぶとするとそれなりに高くはなりそうだから、元はこのくらいだろうね。カルビン村で掛かったお金をザムザさんに返して、私が買いたいものを揃えても宿代くらいは出るだろう。


 おじさんは鹿を引き取り、私に銅貨を10枚渡してくれた。


「わあ、助かりました! ありがとうございます!」


 貨幣文化がないエルフの里の生活に慣れてたから、お金を手にするのは凄く久々! 嬉しくて思いっきり笑顔で頭を下げたら、おじさんはとても驚いていた。エイリンド様も驚いていた。


 いや、そこなんで驚くのよ。私は元々里で一番若いから、腰の低いエルフなのに。


 私の求める物を買いに行く途中、フランカさんが貨幣についてざっくりと説明してくれた。

 今私が持ってるのは大銅貨で、1枚で1000ゾルの価値がある。小銅貨が1枚10ゾル、中銅貨が1枚100ゾル。1万ゾルだったら銀貨1枚でも良かったんだけど、買い物しやすいように大銅貨にしてくれたんじゃないかって。


 ちなみに金貨1枚は10万ゾルで、一般庶民はあまり手にすることはないようだ。その上には、1枚100万ゾルの白金貨がある。


 一番小さい貨幣の単位が10ゾルっておかしいんじゃないのと思ったけど、日本みたいに「1円玉を作るのに2円かかります」ってなことをやってると、貨幣を鋳つぶして金属として売っちゃう輩が出るらしい。なるほどなるほど。


 買い物をするときには、10ゾル単位になるように商品の方を調節するのだとか。面倒だなー。


 とりあえずお金を手に入れたし、エイリンド様説得計画、本格スタートだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る