第10話 師匠洗脳計画

「ろり……こん? それはなんだ。けなされていることは薄々分かるが……」


 僅かに怯えた様子を見せながら、それでも私に問いかけてくるダメ師匠ことエイリンド様。

 聞いちゃうんだ……けなされてることを薄々分かってたら、それ以上突っ込まなければいいのに。


「ロリコンとはロリータ・コンプレックスの略称で、少女を恋愛や性的な対象にする人のことです! ……待てよ? 190年前の私だったらむしろロリじゃなくてペドなんだわ。当時1300歳のペドフィリアやっべー! おまわりさーん、この人でーす!!」

「せい……せっ!?」


 性的という言葉を口に出せずに再び真っ赤になる1500歳。

 女王の息子という地位がありながら、そこらの女性エルフが裸足で逃げ出す美貌を持ちながら、優れた魔力と技を持ちながら――この人が今まで伴侶を持てなかった理由がなんとなく察せられた。


 ハードのスペックは高くても、運用するソフトがポンコツなんだわ。

 幼女に「お嫁さんになるー」と言われてそのまま鵜呑みにしてしまうところとか、果てしなくポンコツなんだわ。


 というか、当時の私もなんでそんなこと言っちゃったんだろうか……。多分顔だな。

 この人を男と認識してたかどうかも怪しいから、顔基準ならもしかしたら母さんとかにも「お母さんのお嫁さんになるー」って言ってたかも。


「その外見で、性的なんて言葉を出すんじゃない……」


 ザムザさんの弱々しい言葉に、エイリンド様が頭をぶんぶん振って同意する。あ、そこ意気投合しちゃうんだ。


「いや、言いますよ? 見た目これでも私の精神年齢それなりに高いんですから。こどもだと思わないでください」

「だったら! 問題ないではないか! おまえが自分でこどもだと思うなと言うなら、私がおまえを好きでもそのロリなんとかには当てはまらないだろう!?」


 息を吸うように自己正当化するよ、この人はァ……。


「私を好きなんです!? それでよくもあんなに厳しい修行を付けてくれましたね……。エイリンド様の場合は、始まりが幼児だからアウト! 問題外! 無し! あり得ない! 無理! 帰れ!」


 私に畳み掛けられて、エイリンド様は目を剥いて真後ろにぶっ倒れた。目を開けたまま――気絶してる!


「お、おい……どうする」

「ルル……やり過ぎよ」

「置いていきますよ、ここに。目が覚めたら里に戻るでしょ」

「情け容赦がない……」

「待ってると言ったくせに私を置いていったザムザさんが、それを言うんですか?」


 私の一言で胸を押さえるザムザさん。良心にクリティカルヒットが入ったらしい。


「途中まで、連れて行きましょう。目が覚めたらそこでもう一度冷静になって話し合った方がいいと思うの。ルルには悪いけど、お互いの我をぶつけ合ってるだけに見えたわ。

 私たちも先へ行かないといけないし、それを両立するためにはザムザが担いで、今日のところは一緒に行った方がいいと思うんだけど」


 我のぶつけ合い……うぐっ。

 確かに、あまりにも予想外のことをぽんぽんと言われたので、カッとなってしまった。

 好きなら好きでいいけどさ……それならもう少し優しく対応して欲しかったよ。「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」じゃないんだから、私を立派に育てようとするあまりに避けられるようになってる時点でダメだし。

 そもそも親目線に近いのに将来の嫁と思われてたってのが衝撃的すぎる。


 私的には、この人は無しだけど。めんどくさいし。


「しょうがないですね……フランカさんの言う通りにします。ザムザさん、本当に申し訳ないんですが、このバカ師匠を担いでいってあげてください」

「おう……俺の荷物を代わりに持てるか?」

「はい、それはもちろんです」


 私はザムザさんの荷物を背負い、ザムザさんはお米様抱っこでエイリンド様を担いだ。

 あと3時間くらいでもう日暮れかな……。今夜は野宿か。



 私の予想は正しく、沢から少し離れたところにいくらか平坦な場所があったので、ザムザさんとフランカさんはそこを今日の寝床に決めた。

 明るいうちに枯れ枝を集め、周りの落ち葉をかき集め、焚き火をしても周囲に火が燃え移らないようにする。


 ザムザさんが焚き火をおこしている間に、フランカさんが沢で水を汲んできた。

 携帯用の鍋でお湯を沸かし、その中に堅焼きパンをバキバキ折って入れていく。そっか、そのまま囓ると固すぎるから、パン粥みたいにするんだね。

 冷えてきたから、そういう食べ方が理に適っているのかもしれない。


「鹿かなにか捕ってきましょうか?」

「いや、ここで解体すると血の匂いで獣が寄ってくるかもしれない。すぐに発つならともかく、ここで夜明かししようというのに冬眠前のクマなんぞを引き寄せたらたまらんからな」

「解体はもっと風下でやったらどうでしょう」

「食べたいんだな? 食べたいんだな? だが却下だ。ちょっと考えて見ろ。そこのなんとか様が目を覚ましたときに、嬢ちゃんがモリモリ鹿を食ってたらまたぶっ倒れるぞ」


 ちっ……バレたか。

 それにしてもエイリンド様はここで帰ってくれるかなあ。精神的ダメージが大きかったら帰ってくれるかもしれないけど、エルフは頑固だからな……。付いてくるって言いそう。


 帰ってくれるなら良し。付いて来られるなら、こっちもそれなりの対応を考えなきゃいけない。

 肉は美味しい、私は間違ってないということを認めさせるために!


 でも、いきなり肉は食べてくれないだろう。いくら私が美味しいと言って見せても、「はい、あーん」ってしても、そこは飛びすぎてる。


 まずは動物性脂肪のうまさで洗脳しなければ。ハードルの低さで言えば牛乳とかチーズ、そんなところかな。


 エルフが抵抗なく食べられそうな物で、かつ、食べたときのインパクトがでっかいもの。

 私はこの辺にありそうな食材を頭の中に並べながら、作戦を立て始めた。

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