第6話 マンドラゴラ捕獲法

 明るくきさくで礼儀正しい(エルフ比)私を見て、村の人は一応「何をするんだかわからないけど見てみようか」って気になったらしい。

 よそ者に対してすっごく閉鎖的な村とかだったらどうしようと思ったけど、元々この辺のいくつかの集落で共同体を作ってるから、他の僻地の村よりはよそ者耐性があるみたい。


 腐葉土を詰めた木箱を持って、私は森へ向かう。一緒に来たのは大きいスコップを抱えたさっきの子と、ザムザさんフランカさん、そして村長さんと10人くらいの村人。

 手に手に得物を持ってるのは、私が何かしたときの対策と、あとイノシシとかが出たときのためかな?


 森に分け入ってからしばらくキョロキョロしながら歩いて、私は目当てのものを見つけた。


「あった……」


 落ち葉の間からちょこっと見える小松菜みたいな葉っぱ。これが特徴なんだよね。


「そこで見ててください。あんまり喋り過ぎちゃうと気づかれて逃げられる可能性があるので、声は控えめでお願いします」

「逃げられる……?」


 村の人たちは相変わらず「何をするんだ」ってポカン顔である。

 私はスコップを受け取って、小松菜みたいな葉っぱの近くに木箱がすっぽり埋まるくらいの穴を掘った。そしてそこへ木箱を収め、周囲を落ち葉で囲う。


 準備ができたら村人たちのところへ戻って、一緒に待機。


「木箱の周りを葉っぱで囲ったのは、つまずいたりしないようにです」

「つまずくって、何が?」


 あれ、この子、男の子かと思ったら女の子だ。男の子の服を着ているだけか。村あるあるだね。

 女の子に尋ねられ、私は「見てればわかるよ」とだけ笑って答えた。

 今答えると、無用にみんなを怯えさせちゃうからね。


 私たちが隠れて見守る中、小松菜っぽい葉っぱがピクリと動いた。そして、ずぼっと土から何かが抜け出して、ひょこひょこと歩き出す。


「!」


 驚きすぎて口を押さえてる人が何人か。

 うん、わかる。これは衝撃の光景だもんね。


 ほら、マンドラゴラが「良い土の気配」に気づいて、自分から移動しましたよ! 自分で立ち上がって、スタスタと腐葉土の中へね!


「歩いた……歩いた、えっ?」


 混乱しまくりの村の人たち&ザムザさんとフランカさん。

 一方、私には見慣れた光景である。前世含めて。


「あんな手足があるんだもん。歩くでしょー」


 逃走する大根みたいなもんだよ。このたとえは通じなさそうだから言うのはやめておくけど。


 村の人たちが頭の上に盛大に「?」を浮かべてポカンとしているところを、「ふーやれやれ」って感じでマンドラゴラが木箱の中に潜り込み、また葉っぱだけ出してご機嫌にその葉を揺らし出した。


 うん、落ち着いたみたいだし木箱を取りに行くか。


「マンドラゴラは無理に引き抜くと被害が大きいので、こうして良い土を入れた木箱ごと捕獲します」

「採取じゃなくて、捕獲!?」


 ザムザさんが頭を抱えて叫んでいる。人間の常識では納得できなかったかー。


「手足だったのか」

「いや、根っこだろう」

「でも顔は根っこにつくものか?」


 今見た光景で混乱しながら村人たちも考え込んじゃってる。今まで「そんなもん」と思っていた常識が崩れたんだね。崩したのは私だけど。


「深く気にするのはやめましょう。あと2匹見つけて捕まえます」

「数え方が、植物の数え方じゃないんだよ……」


 ザムザさんの的確なツッコミ。そう言われてみればそうだー。

 でもこの人、私のやることにこのペースで突っ込んでたら疲れないかな。


 木箱をズボッと持ち上げて、私がそれを持って歩き出すと村の人たちがめちゃくちゃ距離を取った。

 

「どうしたんです?」

「叫ばれたら終わりだろう!」


 はい、常識。マンドラゴラは引き抜かれるときに叫びを上げて、それを聞いた人は死ぬって奴ね。


「こうして土に埋まってる限りは叫びませんよ。それに、叫ばせないで収穫する方法もあります。あ、ラッキー! ラブラブマンドラゴラはっけーん!」


 私は前方に2匹のマンドラゴラを見つけた。ただのマンドラゴラじゃなくて、至近距離でくっついてるやつだ。

 3匹捕獲しようと思って箱を3つ用意したんだけど、ここで2匹一気に行けるのはラッキー。


 私がマンドラゴラ入りの箱を抱えているので、私の指示で村人たちがおっかなびっくり穴を掘る。そして、さっき私がしたように木箱を埋めた。


 また隠れて見守ることしばし。葉っぱがセンサーのようにピヨピヨと動いたと思ったら、片方がズボッと地面から抜け出す。

 そして、まだ地面の中にいるマンドラゴラに手(?)を差し出して、地面から出るのを助けてるね。


 おお、紳士だ……さすがラブラブマンドラゴラ。

 もう片方も手を借りて立ち上がると、2匹揃って木箱の方へ歩いて行く。そのまま、お風呂でも入るような調子で腐葉土の中へ潜り込んでいった。


「これは幸運ですよ。マンドラゴラのつがいです。増やすために2匹と、収穫用に1匹捕まえようと思ってたけど、ちょうど良いのがいた」

「頭が付いていかないわ」


 ぼそっと呟いたフランカさんに、周りの人がうんうん頷いている。

 まあねー。私は転生してからエルフの常識の中で育ったから「こんなもん」って知ってるけど、多分前世の知識を持ったまま育ってたら「あたおか(あたまおかしい)案件」って思ったはず。

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