第4話 家畜はやっぱり改良されてる! うまぁー!
メイデアの森から山を下ったところにある人間の里。その名はカルビン村。
人口は50人ほど。この辺りにはちょっと開けた場所ごとに小さな集落がいくつかあって、お互いに物々交換で資源を補い合って生活してる。
つまり、あんまり通貨はありがたがられない!
一応使うらしいけどね、この辺では手に入らない塩とかを他の街から買い付けるときとかに。
私が「にーく! にーく!」って騒いでたら、冬に備えて最近豚を1頭潰したところだったそうで、それをご馳走してもらえることになった。わーい!
もちろんお支払いはザムザさんです。
お肉の保存はどうしてるのかなって思ったら、なるほど、塩豚ですね。まだ樽に入れてから日が浅いから、塩抜きしないで焼いてそのまま食べられる。
「プラチナウサギの密猟者を片付けに行った冒険者だろう? こんなこどもを連れて大変だな」
「ああ、大変だ……凄く」
なんか私、ザムザさんの娘か何かと間違えられてるみたいですね。頭巾で耳を隠してるから、「すっごい可愛い人間の女の子」だと思われてる模様。
「うわぁー、うまみが凝縮されてるぅー! 塩だけのシンプルな味わいが脂身のうまさを最高に引き出してる! 脂身美味しい! お肉も柔らかくて、さすが家畜! イノシシとはこの柔らかさが違うぜー!
ねえねえおじさん、この豚、どんな飼育をしてるの!?」
私が食べてるのは塩豚のソテーという一番簡単な食べ方だけど、お肉に風味があるんだよね。何か香ばしい木の実の風味というか。
「美味しいかい? 豚はほら、あれなんだけどな。この辺りはドングリがたくさん実るから、秋はそういう木の実を拾ってきて食べさせてるんだ。獣に気を付ければ子供でも拾ってこられるし、豚も太って冬に備えられる」
「ふおっ!? あそこの、黒っぽい豚!? しかもドングリ食べてるってそれは実質イベリコ豚じゃないですか! これは美味しくて当たり前! そうか、このなんか木の実っぽい風味はドングリ食べてるからなんだ……ルル、感動!」
「あらー、可愛い子だこと。ルルちゃんって言うのかい? パンも食べる?」
私たちがご飯を食べさせてもらってるのは、村長さんの家だ。この村は僻地過ぎて宿屋とか食堂がないから。
私がしつこくせがんで、ザムザさんが交渉して、食事を振る舞ってもらった。
村長さんの奥さんは人の良さそうなおばさんで、私が大喜びで美味しい美味しいと食べてるもんだから、パンもサービスしてくれた。
パンは固めで切った断面も茶色く、白い小麦で作ったパンとは全然風味が違う。これはライ麦パンだね。確かこの辺りでは黒麦って呼ばれてた気がする。
このパンはエルフも食べてるよ。でもエルフが作るともっとぱっさぱさのガッチガチだね。強靱な顎で平然と食べるけどさ。
「わあ、バター塗ってある! パンの酸味のある香りに、バターのまろやかな乳の香りがたまらなーい! いただきます……おおおおお! 乳脂肪バンザイ! バターそのままかじったことあるか!? 飛ぶぜぇー!」
「この子ったら、またわけのわからないことを言ってる」
200年振りの動物性脂肪に、私大狂乱!
あまりのテンションの高さに、ザムザさんとフランカさんはドン引きしてるー!
気にしないけど!
「バターは確かに貴重品だけど、こんなに喜んでくれると出した甲斐もあるねえ」
おばさんは目を細めて私の頭を撫でた。
そっか、バターは貴重品か……日本では当たり前に手に入ったけど、この世界はそうじゃないからなあ。
「すまねえなあ、村では貴重なものを食べさせてもらってよ」
ザムザさんがお礼を言ってるのは完全に同意なんだけど、ひっくり返すと私に対する嫌味でもありますね?
「いや、構わないよ。今年は麦の育ちがあまり良くなかったんでな……ここいらの村は大体多めに家畜を潰したんだ。現金もねえといざというとき食料を買えないからな、むしろ助かったよ」
「むむっ? そうだったんですね……しまった、イノシシでも捕ってくればよかった」
さっき走ってるときに見かけたからね、イノシシ。
弓には自信があるよ、伊達に180年くらい弓引いてないからね。
イノシシ肉は、まだ食べてないな。豚肉より脂身が少なくて、肉自体はコクがあるんだよね。イノシシを家畜化したのが豚だから、たまーに村の豚にイノシシを交配することもあるらしい。
「そのイノシシがいつもの年よりドングリを食い荒らしてたからな、豚も減らしとかないといけなかったんだ。痩せてしまってからじゃ遅いし」
「だったら余計イノシシ狩らなきゃいけなかったかも。今年ってそんなに作物の育ちが悪かったんですか?」
イノシシが人間の里に甚大な被害を与えてるくらいだと、メイデアの森の中ではもっと酷いことになってるはずなんだよね。
でも、そんな話は聞かなかったなあ。
「今年は夏に気温が上がらなくて、木の実もなるのが遅れたんだ。もっと山の上の方にエルフの里があるが、イノシシが増えすぎたりしたときにはあいつらが調整してることが多い。
でも、今年はイノシシが山を下ってきちまっててよ……。うちの村でもイノシシを狩って保存肉にするかって話も出てる」
「でも、塩が足りなくてねえ。すぐに食べるというのも限度があるし」
困ったわーって感じにおばさんが頬に手を当てた。
あ、やば。
これ、ちょっとエルフのせいですね?
エルフ、狩るだけ狩って食べないし。その肉を人間にあげようとかそういう発想もないし。
仲間を狩られて森から逃げたイノシシが、こっちに来てるのか……。
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