第23話 2024/03/22 二つ目の傷

 顔の左半分はまだツルッツルの状態なのだが、右半分にはヒゲが生えてきている。治療が終わってもう三週間以上経っているからな、副作用の影響からも回復しつつあるのだろう。


 味覚も不完全ながら戻り、水も茶も飲めるようになった。口内炎も落ち着いてきている。食欲はまだまだであるものの、吐き気は減ったし、あとは便秘が治れば随分と楽になるのだがなあ。


 ただ抗ガン剤と放射線の副作用から回復しているのは肉体の健全な部分だけではない。首筋から湧き出す膿も量を増している。これまで膿の出る傷口は一箇所だけだったのが、いまは二箇所に増えた。


 専門医でもない者が迂闊な素人判断などすべきでないことくらいは理解している。しかし少なくとも下顎の腫瘍は残り、いま活性化しているのではないかと思えてならない。もし本当にこの考えが当たっているのなら、これから先また何らかの治療が始まる訳だ。ああ、憂鬱。


 もうマジに勘弁してもらいたい。金がいくらあっても足りない。借金がただただ増えて行くばかり。体力にだって限界はあるし、手術も入院も御免被りたいのだ。このままでは肉体より先に精神面が限界を迎えるだろう。


 死にたくはない。死にたくないからツラい治療にも耐えてきたのだし「これ以上ガンで苦しむくらいならいっそ楽になりたい」などとは毛頭考えていない。現時点においては。ただこの先、延々と終わりのない治療の日々が続くのであれば、いずれそういう考えに囚われるであろう自分を容易に想像できる。できることならそれは避けたいのだけれど。


 刻々とタイムリミットが近付いている気がする。やれやれ、これでまたやる気を失うのか。頼むから自暴自棄にだけはならないでくれよと願うばかり。

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