第16話 2024/01/22 味がわからん

 抗ガン剤と放射線の併用治療は今日から三週目に入った。朝一番から放射線治療、口腔外科の診察、抗ガン剤の点滴六時間をこなして夕方に帰宅した。こうもヘットヘトになってもちゃんと家に戻ってこんな文章を書いている。体力があるのかないのかよくわからん。


 もっと前から徐々に兆候はあったのかも知れないが、自分で知覚できた限り先週の金曜日十九日あたりから舌が痺れて味覚が消し飛んでしまった。香りはするし口腔に広がる風味は何となく感じられるのだが、味だけがわからないのだ。どうやら放射線治療ではよくあることらしい。しばらくすると改善するようだと調べた限りではあった。とはいえ個人差もあるだろうしな、とにかく当面は味はしないものだという前提で食事を摂るしかあるまい。


 ご飯を食べてもラーメンを食べてもパンを食べても、鼻はいま食べているモノが何なのかを主張するのに、舌がウンともスンとも言わない。舌だけが肉体の一部ではなく強制的に取り付けられた異物のような感がある。動作はコントロールできるものの持っている機能を発揮しない。気持ち悪いったらありゃしない。


 そんなこんなもあって、食欲は絶賛減退中である。料理を用意すれば鼻は「いい香りだ!」と過去の記憶を引っ張り出してくるのに、そこに連続しているべき味覚が伴わないと脳が混乱する。これが続くといい香りを感じているはずの嗅覚が嫌悪感を呼び起こすようになる。おかげで食べたい物がなくなりつつある現状。それでも食わない訳には行かないし、食事のメニューを毎回手を変え品を変え、とできる経済状態でもない。いまある物を食べるしかない。もう苦行の域だが。


 この食欲不振に、頭から泥を被ったかのような倦怠感も合わさってどうしようもない状態。病院には行くしかないので何とか頑張って行くが、それ以外の時間はとにかく寝て過ごしている。寝る時間が増えたところで何ひとつ改善も回復もしないのだけれど、寝る以外にできることもない。まあ病人は病人らしく寝とけって天が告げているのだ、ということにしておこう。

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