第8話 2023/12/20 おっ

 左顎にできている腫瘍が小さくなった気がする。昨日までは右側の奥歯でモノを噛んでも左顎が痛かったのに、今日はそれがない。抗ガン剤治療を始めて十日で実感できるとは、やはりよく効く体質なのだろう。


 このまま抗ガン剤だけで根治してくれたりすると嬉しいのだが、さすがに世の中そこまでご都合主義には行かない。まだまだ治療は始まったばかりだし、ガンに根治など望めない。とりあえず押さえ込めるかどうかなのだ。


 前回の手術では半年ちょっとしか押さえ込めなかった。今回は抗ガン剤と放射線の二段構えで臨む訳だが、果たしてどれくらいの期間押さえ込めるだろうか。一年やそこいらはもってほしいのだがなあ。


 放射線治療は年明けから始まる予定。そこから二月半ばまで、毎日病院だ。いまから気が重い。しかし逃げ出したくても逃げる場所がないしな、粛々と受け入れるしかあるまい。ああやだやだ。気分は塞ぐし金はかかるし、ホント病気になんてなるものではない。もちろんなりたくてなったのではないけれど。


 明日の最高気温は六度だという。ガンは体温が下がれば勢いを増し、体温が上がれば縮小する傾向がある。だから毎日熱い風呂に入るというガン予防法が広まったりするのだが、実際のところそれに効果があるという話はあまり聞こえてこない。少なくとも一度ガンが発生した患者が風呂で治ったという話は知らない。ならばその逆もまた真なのかも知れない。それでも、だ。やはり寒いのは気分が悪い。自分が自然から攻撃されているような気にすらなる。


 大自然にケンカを売っても無意味なのは重々承知しているのだけどな。まあほぼ八つ当たりである。とにかく明日は暖房の効いた部屋で湯たんぽ抱えながら布団にくるまっているとしよう。病人なんだから当たり前っちゃ当たり前なのだが。

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