第3話 2023/12/06 テンション

 テンションが上がらない。


 ガン患者が何をテンション上げる必要があるのかと思う向きもあるだろうが、何かを創ろうとすると、それなりにテンションを上げなければ踏ん張りが効かないのだ。物語周辺の枝葉の部分をぼんやり考えるだけなら高いテンションは必要ないが、コアな部分を固めようとすると相応のテンションの高さと集中力が必要になってくる。


 ところがそのテンションが上がらない。何かを考えようとしても「また明日でいいかな」と雑念が入り、そのままYouTubeを開いたりして何もしないまま一日を過ごす。まあ本当に明日でいいのならそれで構わないのだろうが、残念ながらいまの私に保証された明日など存在しない。明日という時間が本当にあるのかどうか、明日になってみなくてはわからない。だから今日できることは今日のうちにやっておきたいのに、いざ向かい合おうとするとテンションが上がらず、ただため息ばかりが湧き出てくる。何とも厄介な。


 そりゃあ確かにいまの私は死刑判決を待っているような状態だし、こんなときに元気など出てくるはずもないのは当たり前である。客観的に見ればそう思う。ただそれでも無為に時間を浪費したくはないのだ。何かしておきたい。しかし気持ちは空回りするばかり。どうにもこうにも。


 別に「病気になんて負けるものか!」みたいな肩に力の入ったことを考えている訳ではない。でも人生にタイムリミットがある現実を目の前に突きつけられると、やはり時間の無駄遣いをしている余裕は受け入れられなくなる。怠惰は罪だと感じてしまう。なのに現実にはテンションが上がらず何もできないのである。自分がどれほどダメな人間かはよくわかっているつもりだったのだが、ここ数日より一層自信を喪失してしまっている。まあ簡単に言えば鬱状態に入りかけているのだな。


 ただでさえ冬になって気温が下がり外が暗くなっている現在、気分が落ち込むのは生理現象として当然。しかも元々鬱病持ちであるし、さらにはガンが再発したかも知れないとなっては役満と言っていい。おまけに腫瘍のできている左下顎の違和感がキツい。食事のときは右側の歯だけで噛んでいるのにそれでも噛むたび痛む。リーチ一発くらいはついてるよなこれ、という感じだ。まったくもう。


 そう言えば今日くらいから食欲が落ちている。何とか頑張って食べてはいるのだが、これって一時的な気分性のモノだろうか。医者でもあるまいに、先回りして心配しても無意味だろうとわかってはいるのだけれどな、どうしても悪い方に考えてしまう。そしてまたテンションが上がらなくなるのだ。


 今朝見た夢の中で誰かが言ってた。「自分の順番がやって来た」と。そんなことは言われなくても自覚している。でも足掻きたいのだ。いままでダラダラ生きてきたのだから、最後だけでもジタバタ悪足掻きをしたいと考えている。そのくらいなら格好付けても許されるのではないか。死んだ後のことまでは知らんけどな。

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