第43話
「アラン~…」
「2日間だけですからそんな今生の別れだけのようなお顔をなさらないでください」
次の日、私は玄関で半泣きになっていた。
2日よ、たったの。
そう思おうとしても、テオード殿下のことを考えると憂鬱になってしまう。
アランは執事服ではなくカジュアルな服に身を包み、小さめのトランクを持っていた。
いつもなら雰囲気の違う服に大興奮なのだが、今の私にはそんな元気がない。
「ほら、ご準備もあるでしょう」
「うぅ……じゃあ戻るけれど、くれぐれも気を付けてね」
「はい、折角頂いた休暇ですので大切に過ごさせていただきます」
アランは優しく微笑むと、トランクを持ち直した。
「では行って参ります」
「うん、行ってらっしゃい」
安全を願いながら手を振ると、アランも丁寧に振り返してくれた。
しばらく玄関で見送っていたが、準備があることも確かなため屋敷内に戻る。
自室に戻り、自分でもう一通り掃除をしてからルームフレグランスを撒く。
応接間で対応する予定だが、念には念を入れても悪いことはないだろう。
丁度いいタイミングでメイドがドレスの着付けにやってきたためされるがままになり、髪も綺麗に結い上げてもらっていく。
鏡越しに自分の顔を見ると、思っていたよりも嫌悪が滲んでいることがよく分かった。
これではいけないと、軽く息を吐いて気持ちを引き締める。
「終わりました」
メイドの声にハッとして振り向く。
そこには綺麗な黄緑色のドレスを着た自分が立っていた。
細かい刺繍が施されており、胸元には宝石が散りばめられたネックレスがその存在を主張している。
「とてもお似合いですよ」
「ありがとう」
褒められたことに素直に礼を言うと、何故かクスッと笑われてしまった。
笑われるような心当たりがないため、首を傾げてしまう。
「どうしたの、何か変だった?」
「いえ。アランさんがいらっしゃったことにより、お嬢様の雰囲気が柔らかくなったように感じまして」
「えっ?」
「以前はどこか冷たく感じる時もありましたが、今は温かさを感じると言いますか」
「そ、そうかしら?」
「はい。アランさんはとても良い方ですね」
「……えぇ、自慢の執事よ」
メイドは私を微笑ましそうに見ると、部屋から出て行った。
「……さぁ、気合を入れなくては」
両手で頬を叩き、気合を入れる。
そして再び鏡を見て、今度は笑顔を作る。
「よし!」
大丈夫、やれる。
自分にそう言い聞かせてテオード殿下を待つのだった。
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