第42話


すれ違う使用人全員に心配の声をかけられるが、そんなに酷い顔をしているのだろうか。


いつもの2倍近い時間をかけてお父様の部屋の前に着いた。

ため息をついてノックのために手を持ち上げたところで止まってしまう。


「ねぇ、やっぱり逃げてはいけないかしら?」

「ご主人様のご意向次第ですね」

「…そういえば、今とんでもない魔力を受ければ体調崩すのよね~」

「お見舞いと書いてありましたし、体調不良では逃げ切れないでしょうね」

「はぁ~…」


再びため息をつくと、何の前振りもなく目の前のドアが開いた。

肩が跳ねるほど驚いたが、ドアを開けたのはお父様だった。


「私の部屋の前で何をしているのだ?」

「騒がしくしてしまい申し訳ありません」

「いや、それは良いのだが何か用事か?」

「あー……」


ちらりとアランを見るも、アランは首を縦に振るだけだ。


「少しお話ししたいことがありまして」

「なんだ、遠慮なく入ってくれば良かったのに。ほら」


そう言ってお父様は部屋に招き入れてくれた。



「それで、話とは?」


ソファーに座ると、アランが紅茶を淹れてくれた。

お父様はアランに感謝を述べてから早速尋ねてきた。


「実は―――」


手紙の内容を簡潔に説明していく。


するとお父様は紅茶を机に置くと、笑いながら口を開いた。


「テオード殿下もなかなかなことを考えられるな」

「笑い事ではありませんよ!」

「まぁ、リディアの体調に関してもご理解いただいているようだし、そこまで気にすることはないのではないか?」

「そうでしょうか……」


確かに手紙にはお見舞いと明記されていたが、だからこそアランのことを追及される可能性もある。


あっ…


頭の中で色々考えていると、1つの大きな問題に気づいた。


「お父様、アランをどう隠しましょう」


するとお父様もようやく気づいたようで、困ったように眉を下げた。


「…会わせるのは、」

「アランを殺す気ですか?あの嫉妬深い殿下が私専属の執事の存在をお許しになると本気でお思いですか?」

「やはりそこはお変わりないか」

「ですので、お父様はどうにかして誤魔化してくださりませんか?」


そう申し出るとお父様は少し言い淀んだ後、頬を掻きながら口を開いた。



「えっと…実は明日から3日間出張が入っていて明日の早朝から屋敷にいないのだ」


「……はい?」



思わず低い声が出てしまった。

しかしそれも仕方がないと思う。


だって、つまり…


「私1人でテオード殿下をお迎えするのですか!?」

「仕方ないだろう。明日という申し出なのだから」

「ではアランをその出張に連れて行ってくださいよ!せめてアランの身だけは守ってください」

「護衛も出張先から指定がされているのだ。すまないが連れていくことは出来ない」


お父様はすまなさそうな表情をするだけでそれ以上何も言わない。

背凭れに体重を預け、深く息を吐く。


「……テオード殿下の来訪を断るわけにはいかないのでしょうか」

「…それこそ無理な相談だろう」

「ですよね……あの、私が個人的に逃亡を図るというのは…」

「王族相手にか?」

「…お忘れください」


ちゃんと手詰まりになっている。

これはもう諦めて腹を括るしかないのか。


「しかしアランがこの屋敷に隠れ続けるというのも難しい話だな」


お父様は唸るように考え込む。

確かにアランの存在はバレる可能性が高い。


「そうだ、アランに休暇を与えるのはどうでしょうか」


「確かにそれはいい案だな。ここで働き始めてしばらく経つが、休暇らしい休暇を取れていなかったからな」


それまで黙って聞いていたアランが慌てた様に口を開く。


「恐れ入りますが、私のことはお気になさらないでください。お忙しいタイミングで休暇をいただくなんて…」

「でもあなた死ぬわよ」

「そんな直接的な脅しあります?」

「事実だから言っているのよ。お父様もそう思われますよね?」

「ああ。それにお前はずっと働き詰めだからな。ゆっくり休むといい」

「……ありがとうございます」


アランは深々とお辞儀をした。


こうして急遽アランに2日間の休暇が与えられた。

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