第39話
「大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとう」
ソファーに腰かけると、アランが昼食を持ってきてくれた。
体調を考慮してか、比較的食べやすいラインナップだ。
「では午後からはベッドで安静になさってください」
「またぁ?っていうか、尻尾は!?」
「無茶しないという約束だったでしょう。駄目です」
アランは机の上に置いたままだった植木鉢を窓際に戻しながら呆れたような表情をしている。
「でもお父様の協力もあって自分以外の魔力で体調を崩すことが分かったわね」
「え?」
「だって、アランが獣人であることを気にしていたから…お父様の魔力でも駄目だったのだから獣人なんて関係なかったでしょう?」
まぁその結果、尻尾は触れず終いであるのは辛いが仕方ないだろう。
残念に思いながら昼食を食べ終えると、アランが食器を下げに来た。
食器を任せて体力回復の為に無心でいれば、アランが寄り添うように立ってきた。
その意図が読めなくて思わず首を傾げてしまう。
「食器ありがとう」
「いえ」
「…?どうしたの?」
「……先程のご主人様への訪問は私のためだったのですか?」
「あー……うん。だってアランの魔法は誰が見たって綺麗だもの。それに獣人の何が悪いのよ」
「仕方ないですね」
アランは照れくさそうに笑うと、失礼しますと断りを入れてから尻尾を私の手に乗せてきた。
飛びつきたくなる衝動を抑えるために一度深呼吸をする。
「これは?」
「……触りたかったのではないですか?」
「え、でも…いいの?」
「優しく触ってくださいね」
アランを隣に座らせてから尻尾をゆっくり撫でると、以前の反応と違い気持ち良さそうに目を細める。
耳もぺしょりと垂れており、いつもの格好いい姿とのギャップに変な声が出そうになる。
「可愛い……」
「……可愛くないですよ」
照れたようにそっぽを向いてしまうアランに思わず笑ってしまう。
あまりにもふわふわな尻尾に眠気を誘われてしまうほど癒される。
「ふわふわね」
「確かに以前に比べると毛並みは良くなりました」
嬉しそうにピコピコと動く耳に視線を奪われてしまう。
「獣人国の食事に比べると、シェルニアスの食事は味も質も素晴らしいですからきっと尻尾にも十分な栄養が行き渡っているのでしょうね」
「そうなの?」
「私の仕事場はなかなかの多忙でしたから食事も疎かにしていましたし、ブラッシングをする余裕もありませんでしたから」
「ブラッシング?」
私が聞き直すと、しまったというようにアランは口を押えてしまった。
そんなことされると余計に気になってしまうではないか。
「ブラッシングって私でもできるかしら?」
「あの、リディア様。怖いです、そんなに目を輝かせないでください」
「教えてくれるまで離さないけどいい?」
「……分かりました。教えますから」
「やった!」
諦めたように溜め息をつくアランの言葉を待つ。
「そんなに期待されてもブラシは自室にありますので今すぐ何かできるわけではありませんよ」
「じゃあ取りに行きましょうよ」
「え?本気ですか?」
「どうせ安静にしていないといけないのなら新しいことに挑戦したいの」
「言葉だけで無理矢理正当化するのはお止めください」
私がブラッシングに対してどれだけ本気なのか分かったようで、渋々立ち上がってくれた。
「リディア様、尻尾をお離しください」
「私も一緒に行く」
「……」
「中には入らず、外で待っているから」
「まぁ、それなら…」
「渋っていた理由はそこだったの!?」
私の言葉を華麗にスルーしてアランはドアノブに手をかけた。
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