第38話
姿勢を正して手の平に意識を向ける。
最初から普段通りに魔法を使うのは危険な気がしたため、丁寧に魔法を使う手順を踏んでいく。
手の平が段々と暖かくなり、空気が変わるのを何となく感じる。
あれ、自分の魔力だと気分が悪くならない…?
「アラン、窓際に置いてある植木鉢を1つ持ってきてもらってもいい?」
「はい」
アランは植木鉢を持ってくると机の上に置いてくれた。
手の平に留めていた魔力を植木鉢に向ける。
すると植わっていた植物が急激な成長を始め、花を咲かせた。
「リディア様…?あの、体調は…」
「えっと、全く変わらないのだけれど…」
自分の魔力は元々体に流れているものだから、体外に出したところで体調を崩さないのかな。
高熱を出したのも、他者の魔力と体内を回る魔力のぶつかり合いが原因だろう。
「…もしかして私が獣人だからでしょうか」
私が色々考えていると、アランはそう言って悲しそうに笑った。
彼なりに原因を考えた結果、その答えに辿り着いたのだろう。
その答えも一概に否定できない。
でも正しいとも言えないし、そんな答えは今すぐにでも違うと証明したかった。
「アラン…」
「やはり獣人が人間の魔法を見よう見まねで使うのは無理だったのですね」
アランは自嘲気味に笑うと、私から目を逸らすように俯いた。
「…ちょっと来て」
「え、リディア様!?」
アランの手を引いて部屋を出る。
廊下を進み、向かう先はお父様の部屋だ。
アランは困惑しながらも着いてきてくれている。
「お父様、失礼します」
「リディア?どうしたんだい、そのような格好で」
お父様は突然の訪問に驚いているようだ。
そういえばネグリジェのままだったことを今思い出す。
「そんなことはいいのです」
「いいのか」
困惑しながらも書類を置いて話を聞く体勢になってくださる。
「今日の訓練を通して、自分の魔力なら体調に変化がないことが分かりました」
「おぉ!それは良かった!」
「しかし自分以外の魔力はまだ慣れないので、実験的で申し訳ないのですが何か魔法を使っていただけませんか?」
お父様は少し考え込んだ後、右手の人差し指をくるくると回して水滴を発生させた。
それを見て、お父様の魔法を見たのは初めてだったことに気づいた。
水魔法を使われるなんて知らなかった。
少し見惚れていると、急に吐き気に襲われる。
やっぱり駄目だったか。
蹲る私を見てお父様はすぐに魔法を解除してくださった。
アランも急いで支えてくれた。
「っ…」
「大丈夫か!?」
「…やはり、自分以外の魔力は厳しいみたいですね」
「そうか……」
「リディア様、今日はもう止めておきましょう」
アランの言葉に素直に頷く。
だが吐くことも無くなっているため、もしかしたら少しずつではあるが成長しているのかもしれない。
「お父様もご無理を言ってしまい申し訳ありませんでした」
「…次は元気な時に来て話を聞かせておくれ」
「はい」
心配そうな表情のお父様に見送られながら、私はアランに支えられながら部屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます