第33話


「先ほども言ったが君が倒れたのは10日前だ。自室のベッドで意識を失っているところを使用人が発見したらしい」


その言葉にきっとアランが発見してくれたのだと察する。

きっとお父様がアランの存在をテオード殿下から隠すために配慮してくれたのだろう。


「それから酷い高熱のまま嘔吐が何度かあり、命に関わる容態だったため3日目からこの城内の客室で入院となった」

「そうだったのですか。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」

「気にするな。それよりまだ辛いだろうからもう少し休んでいるといい」

「ありがとうございます」


再び横になると、額に冷たいタオルが置かれた。

その冷たさに心地よさを感じながらもテオドール殿下と目を合わせる。


「テオード殿下、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか」

「何が聞きたい?」


「…使用人の中に今回の件で罰された者はいませんよね?」


テオード殿下は無言のまま何も言わない。

その無言の時間に焦りが募ってしまう。


「なぜ何もおっしゃられないのですか」

「それを聞いてどうするつもりだ?」

「今回の体調不良に関しては、毒物は関係ない上に私が自分の意思で事前に人払いをしておりました。発見が遅れても仕方ない故、誰も罰される必要はありません」


頭痛に耐えながら必死に言葉を紡げば、テオード殿下は先程の怖いほどの真顔を消して笑みを浮かべた。

それから私の頭を優しく撫でると、穏やかな声でこう告げた。


「安心しろ。この件で処罰を受けた者はいない」

「っ、良かったです……」

「だが、リディアの体調不良については今も原因不明なんだ。何か心当たりはあるか?」


心当たりと言えば、あの空気が曲がる様な気持ち悪さを感じたこと。

そしてその直前に影のようなものを見たこと。


「きっと連日の夜更かしが祟ったのでしょう。学びの手が止まりませんでしたの」

「それでこんなに体調を崩すのか?」

「しばらくしっかりとした睡眠を取っていませんでしたので」

「勉強熱心なことは良いことだが、頼むから寝てくれ…」


呆れた様に溜め息をついた後、彼は真剣な顔でこちらを見つめてきた。


「とにかく、今はゆっくり休むことだ。いいな」

「はい、ありがとうございます。ちなみに自宅に戻ってもいいのですか?」

「ここと屋敷だとどちらの方が休まる?」

「自宅ですね」

「では今日はもう遅いから明日の昼頃馬車を手配しておこう。馬車が着き次第メイドが迎えに来るからそれまで安静にしていてくれ」


壁に掛けられた時計を見ると深夜を指しており、テオード殿下がわざわざ気遣って様子を見に来てくれたことに気づいた。


「ありがとうございます。あと、我が儘ですが馬車はウィルソン家の物でお願いします。流石にこれ以上国の物をお借りするわけにはいきません」

「…分かった」


何か言いたそうにしていたがお願いすれば、渋々ではあるが頷いてくれた。


テオード殿下が部屋を出て行ってからも、頭痛や吐き気は治まらなかった。

目を瞑ればすぐにでも眠りについてしまいそうなほど体は疲れ切っているはずなのに、なかなか寝付けない。

このまま意識を失うように眠ってしまいたいと願うも、頭痛が邪魔をして眠れなかった。

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