第32話


酷い頭痛と尋常じゃない体の熱さで目を覚ます。

ぼんやりとした視界に飛び込む痛いほど白色に思わず顔を顰める。


声は掠れていて全く出ない。

何とかして状況を把握しようとしたところで、誰かが私を呼んでいることに気づく。


「……アラ……ン……?」

「リディア!良かった……!」


ようやくはっきりしてきた視界で捉えたのはアランではなく、テオード殿下の顔だった。

彼は私が起きたことに安心したようで、ほっと胸を撫でおろした。


「今医者を呼んでくるから少し待っていてくれ」


優しく頭を撫でると、そのまま立ち上がって部屋を出て行ってしまった。

まだ思考回路が働かない状態で視線だけを動かしてみると、そこは自室ではなかった。


私は一体どうしてしまったのだろう。


記憶を辿ろうとするも、うまく頭が働いてくれない。

ただ分かることは、類を見ない体調不良に襲われているということだ。


慌ただしい足音が聞こえると共に部屋の扉が開かれた。

息を切らした医者とテオード殿下は一緒に入ってきた。


「お待たせしました。診察しますね」


そう言うなり、聴診器を当てたり脈を測ったりしてくれる。


「山場は超えましたね。しかしまだ体温も高いので安静になさってください」

「ありがとうございます」


一通りの診察を終えた医者は表情を緩めると、水の入ったコップを差し出してくれた。

テオード殿下に手伝ってもらいながら上半身を起こしコップを受け取ると、自分の腕に点滴が打たれていることに気づいた。


「点滴…ですか」

「昏睡状態だったので打たせていただきました」

「何日ぐらい眠っていましたか?」

「今日で10日です」

「10日!?」


予想以上の期間に驚いている間に、医者はテキパキと器具を片付けてしまった。

その後、薬を置いて部屋から出て行った。


「まさか、あの状態からここまで回復するとは……」

「回復?どういうことでしょうか?」


10日間寝ていただけでも驚きなのに、あの状態という言葉に引っ掛かりを覚える。

私が覚えているのは、あの異様な感覚と目眩だけだ。


「リディアは何も覚えていないのか?」

「はい。正直、あの時は気分が悪くてそれどころではありませんでしたから」

「…そうか。なら、あの時のことを詳しく説明しようか」


テオード殿下は真剣な眼差しで話し始めた。


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