第22話
「リディア・ウィルソン様がご到着されました」
馬車に揺られて30分。
窓から見える景色を眺めていれば、いつの間にか城に着いていた。
馬車を下りて集まった使用人に挨拶をする。
「皆様、本日はよろしくお願い致します」
私の言葉に彼らは朗らかな笑みを浮かべる。
王妃候補として幼い頃から城と縁があったため顔見知りの使用人も多く、有難いことに彼らとは良好な関係を築けていた。
そんな仲の良いメイドたちに連れられてテオード殿下の部屋に向かう。
…はずだった。
「テオード殿下の自室はあちらではありませんでした?」
案内される方向に彼の自室はないはずだ。
違和感に耐えきれず問うも、メイドは言葉を濁すだけで足を止めようとしない。
もしかしたら良からぬことを企んでいるのかもしれない。
一度疑ってしまうとその思考を止めることは出来ず、今の内に魔力を手足に集中させておく。
しかし確証を得るまでは動くことは出来ないため、メイドたちに大人しく着いていくしかなかった。
「こちらでテオード殿下がお待ちです」
警戒度が増していく中案内されたのは、中庭だった。
中央には大きな噴水があり、地面には石畳が敷かれている。
花々に囲まれたテーブルには、すでに紅茶やお菓子が用意されていた。
警戒していたからか、なんだか肩透かしを食らった気分だ。
「いらっしゃい、リディア」
「ご招待いただき光栄でございます、テオード殿下」
失礼のないように作法を守った礼をすれば、彼が小さく笑う声が聞こえた。
「そうかしこまらないでくれ。俺と君の仲だろう?」
犬猿の中ではありますね、と悪態をつかなかっただけマシだろう。
差し出された手に自分の手を重ねれば、自然な流れでエスコートされる。
用意された椅子に腰掛ければ、向かい側に座った彼の指示によってメイドが紅茶を注いでくれる。
「この茶葉は最近街で人気のものらしいよ」
「それは楽しみですわ」
彼とのお茶会はこれまで何度もあった。
しかし今までは全て彼の自室で開かれていたため、屋外というのは新鮮だった。
「中庭でのお茶会も素敵ですね」
「あぁ。君に喜んでもらえたなら嬉しいよ」
紅茶を飲んでからそう言えば、テオード殿下は嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、今日は何の御用でしょうか?」
「用が無ければ誘ってはいけないのかい?」
「いえ、そういうわけでは……」
「まぁ、強情なところは相変わらずか」
苦笑いしながら彼はカップを置いた。
そして、真っ直ぐな視線を私に向けた。
「単刀直入に言おう。俺と結婚してほしい」
中庭に響く凛とした声。
その言葉の意味を理解するのと同時に疑問が浮かぶ。
「あの、ちょっといいですか」
「…何だ」
緊張しているのか、少し返事が遅い気がする。
いや、そんなことどうでもいいんだけどさ。
「今更ですか?」
「…ん?」
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