第18話



「私の魔法をご覧になりたい、と?」

「えぇ、駄目かしら?」


魔法の授業が終わった日の夜、アランはこの前の紅茶を再び淹れてくれていた。

相変わらず少し強い香りがするが、一口小さく飲めば独特の旨味が口に広がる。


「リディア様にお見せできるような綺麗なものではありませんよ」

「あら、それを言ったら私だって自分の魔法を綺麗だとは思っていないわよ」

「そういう問題ではなくてですね……」


困ったように耳を垂らす彼の様子に笑みが零れる。


「どうしても見たいの」


そう言って彼を見つめれば、しばし悩んだ末こちらに歩み寄ってきた。


「……あまり期待しないでくださいね。あと私の魔法は少々変わっております故、どうか驚かないでください」

「分かったわ」


アランは私の返事を聞くと、静かに目を閉じた。



すると、不思議な音が聞こえ始めた。

金属と金属がぶつかり合うようなその音は時間が経つにつれて段々と大きくなる。

音が意識しなくても聞こえるまで大きくなった時、アランから強い光が放たれた。



眩しさに思わず瞼を閉じる。


光が収まってから目を開けると、普段よりも獣の要素を強く出したアランが紫色に鈍く光る剣を手にしていた。



「これが私の魔法です」



口も獣寄りになっているせいか、アランはいつもより話しにくそうだ。



いつもよりも丸く大きな手に鋭く伸びた爪。

口は前に突き出しており、歯は太い上に尖っている。

瞳孔はこの光に溢れている部屋では縦長の形になっていた。

そして尻尾は普段の倍ほどの大きさになっていた。



私がその姿に心惹かれないはずがなかった。


「あなたはどこまで私を惚れさせれば気が済むの?」

「はい?えっと…」

「無自覚な所も含めて大好きよ」


戸惑うアランににじり寄れば、彼は何かを察したのか剣先を私に向けないように気を付けながら私と距離を取った。

そういう気遣いができる所も格好良すぎるのよ。


「リディア様!落ち着いてください!」

「私は冷静よ?」

「嘘をおっしゃらないで下さい!」


アランは必死に私を宥めるように剣を持っていない方の手を前に突き出した。

彼の手に私の手を重ねれば、驚いたように体が跳ねた。

そのまま指の間に私の指を入れ込めば、ぎこちなくアランの動きが止まった。


「アラン……」


名前を呼ぶと、アランは観念したようにそろりと視線を合わせてきた。



しばらくそのまま見つめ合う。


「そんな声を出しても私は屈しませんからね」

「…まぁ、私も同意の上の愛がいいからここまでにしておいてあげる」


ぱっと手を離せば、アランは息を吐いた。

どうやら無意識に緊張していたらしい。


「ごめんなさいね、意地悪しちゃって」

「…自覚があるなら止めてくださいよ~…」

「でも、アランが魅力的過ぎるのが悪いのよ?」

「……こんな中途半端な獣の姿を見て何をおっしゃっているのですか」


アランは自嘲気味にそう吐き捨てた。

何故彼がここまで苦しそうな顔をしているか分からないが、好きな人が苦しそうにしているのは見たくない。

気づいたら彼の頬に両手を添えていた。


「アラン、私を見て」

「リディア様…」

「前にも言ったけれど、あなたは私の執事なの。例えあなた自身でもアランを貶す発言は許さないわよ」


アランは何か言いかけていたが、もごもごと動かすだけで何も言わなかった。

そんな彼に私は微笑む。


「私はどんな姿のあなたも好きよ。だからもっと自分に自信を持ちなさい」

「……はい」


アランはそう呟いてから、いつものように優しく微笑んだ。

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