第19話


「さっきから気になっていたのだけれど、その剣を見せてもらうことはできる?」


アランは紫色に鈍く光る剣と私を見比べてから少々考えるように唸る。

何か問題があるのかと思い、発言を取り下げようとしたところで彼が1つ大きく頷いた。


「もしかしたら、リディア様なら大丈夫かもしれませんね」

「へ?」


よく分からない信頼の言葉に気の抜けた声が出てしまう。

しかしアランは気にすることもなく、剣を丁寧に机に置いた。


「どうぞ」

「あ、ありがとう…」


さっきの間が気になるが、とりあえずお礼を述べてそれに触れる。

剣は想像以上に重く、両手持ちでやっと持ち上がるほどだった。


「重…い」

「でも持ち上げられているじゃないですか」

「ちょ…もう、」


腕がプルプルして限界を迎えそうになった時、アランが軽々と剣を持ってくれた。


「大丈夫ですか?」

「……ありがと」


片手で剣を持つアランを見て、私も腕力をつけるべきかななんて考え始める。

そんな私をどう判断したのか、困ったような顔をしながらアランが口を開く。


「そんな顔しないでください。そもそも、この剣を崩れず持つことができる時点で凄いことですから」

「え、そうなの?」

「えぇ。私のことを信頼していない人がこの剣に触ると、剣自体が崩れてしまうのです」


こんな風に、とアランが剣を握る力を緩めた瞬間、剣は泥のようなものに変わり床に落ちた。

しかし、それも床に落ちた瞬間消えていく。

驚いて固まっている私に人間寄りの顔に戻ったアランは苦笑いしながら説明してくれた。


「狐が人を化かすというお話はご存じですか?」

「えぇ、もちろん」

「私は狐の獣人なので、魔法にもそれが反映されてしまうらしいのです」

「つまり、さっきの剣を持てるかどうかで信頼しているかどうかを判断できるということ?」

「その通りです」


狐が人を化かす、という噂は所詮は作り話に過ぎないと思う。

しかし、昔から語り継がれている話ではあるためアランの潜在意識に刷り込まれており、それが魔力に反映しているのかもしれない。

便利といえば便利だが、どことなく悲しい特性だと感じた。


「アラン」

「はい」

「私たちの婚約指輪にはあなたの魔力を込めてね?」

「魔力ですか…って、婚約指輪!?」

「私たちだけが触ることができる婚約指輪、素敵だと思わない?」


アランは呆けた顔をしていたが、意味を理解すると少しだけ顔を赤らめてクスクスと笑った。

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