第9話
「…ん?」
「どうかされましたか、お嬢様」
夕食も済ませ、時刻は8時を回ったところ。
湯あみのために服も脱いで、あとは湯に浸かるだけなのだが問題はその湯舟にあった。
「なんで薔薇の花びらが浮いているのよ」
「先ほどアランさんが持ってこられてお嬢様の為に浮かべておいてほしいと」
「…夕食の時に見かけなかったのはこれが理由だったのね」
しかしどうしてもテオード殿下が用意した花びらで身を清めたくないため、仕方なく魔法を使う。
私は植物系の魔法がメインなため、花弁も対象に入る。
指を鳴らして湯舟に浮かぶ花弁を手元に集める。
そのままメイドにかごを持ってきてもらい、その中に入れておく。
後でアランへの仕返しに使おう。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。よくもやってくれたわね」
「何のことでしょうか?」
アランはしれっとしているが、少し口元が緩んでいる。
これは確実に分かってやっている。
「薔薇の花びらをわざわざ集めて湯舟に浮かべたでしょう?」
「リディア様が困った表情をしているのが可愛らしくてつい」
「……全く」
こんな少年のような笑顔で言われたら結局許してしまう。
こういうのを惚れた弱みというのだろうか。
「ほら、こちらにいらしてください。髪を乾かしますよ」
「分かったわよ」
鏡台の前の椅子に座る。
彼は慣れた手つきで髪を乾かし始めてくれた。
ぼーっとしながら鏡を見れば、先ほど湯船から集めた花びらが入ったかごが鏡越しに見えた。
「ねぇ、アラン」
「どうされました?」
全く警戒していないアランにちょっと仕返しをしたくなった。
「ばぁ」
花びらに魔力を込めて、アランの顔の前にばら撒いた。
「っ!?」
「ふっ、あははは!」
まさか私がこのようなことをするとは思っていなかったのか、アランはきょとんとして固まっている。
それが面白くて笑いが止まらない。
ようやく状況が呑み込めたのか、動揺しながらも口を開いた。
「リディア様!何ですかこれ」
「んー?仕返し」
そういうとアランはむすっとした顔をした。
いつもより幼く見えるのが可愛い。
「ごめんなさいね。ちょっとやりたくなったの」
再び魔力を集中させ、花びらをくるくると舞わせて遊ぶ。
アランはそれを横目で追いつつも髪を乾かしてくれる。
「リディア様の魔法は綺麗ですね」
「そう?」
「はい、初めて拝見しましたがとても素敵です」
「…ありがとう」
すごいと言われることはあるが、素敵とはなかなか言われたことがなかった。
何となくな恥ずかしさを押し殺しながらお礼を言う。
「終わりました」
「ん、ありがとう」
ドライヤーの音が止んで、櫛で髪を整えてくれる。
「明日は何時に起きられますか?」
「うーん、いつも通りでお願いするわ」
「畏まりました」
明日の予定を伝えれば、ちょうど髪の手入れも終わったようでアランの手が止まった。
明日は朝早くから買い物に行くため早く寝なければいけない。
「じゃあ、私はもう寝るわね」
「はい、おやすみなさいませ」
ベッドに入り、明日の買い物に思いを馳せる。
ドレス選びはきっと時間がかかるだろう。
それでもアランと一緒に出かけられるのなら苦にはならないはずだ。
明日の買い物、楽しみだな。
そんなことを考えていたらいつの間にか眠りについた。
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