第7話


「リディア様、お迎えに上がりました」

「急だったのにありがとう」


アカデミー内のベンチに座って駄弁っていれば、アランはすぐに迎えに来てくれた。

彼の肩に乗っている若葉色の鳥を呼び寄せて、お礼を伝えてから魔力を自分の体に戻す。

急に呼んだにも関わらずすぐに来てくれた上にビジュが100点だ。


「い、イケメン…」

「お褒めいただきありがとうございます。もしや、リディア様のご友人ですか?」

「そういえば紹介していなかったわね。友人のエミリーよ。エミリー、この前から家に仕えてくれているアランよ」

「お初お目にかかります。エミリー様」


慣れた様に頭を下げるアランに礼を返してからエミリーは私に耳打ちをしてきた。


「待って、こんなに格好いいなんて聞いてない」

「私は容姿よりも内面を重視するから確かに容姿言及はしていなかったわね」

「……」

「………え、ちょっと惚れないでちょうだいよ」


エミリーに改めて釘を刺しておいてから、アランには私の荷物を持ってもらってそのまま馬車に乗り込んだ。

さすがにエミリーのためと言えどアランを譲ることは出来ない。



馬車に乗り込んでから家に着くまでの間、アランにテオード殿下がいらっしゃったことを報告した。

報告した途端、アランは目を輝かせて興奮していた。


「では、いよいよ正式な次期王妃になられるのですか!」

「…何でそんなに喜んでいるのよ」

「次期王妃様に仕えることができるなんて執事冥利に尽きますね」


魔法で尻尾を隠しているはずなのに何故か尻尾が見える。

嬉しさが隠し切れていないようだ。


「……テオード殿下は私を好いてくださっているけれど、私的にはあまり好意的な印象を抱いていないのよ」

「それはまたどうしてですか」

「殿下は少々強引すぎる上に嫉妬深い方だから」

「なるほど」


獣人にも共通の心当たりがあるのか、納得の表情を浮かべていた。


「しかし、王妃となれば殿下とのご結婚は免れませんよ」

「そうなのよね。でも正直にアランのことを話したら……ね?」

「え、ちょ、そこで止めないでくださいよ!!怖いじゃないですか!」

「これが冗談や単なる脅しならいいんだけれど相手は王族。言葉1つで相手の人生を狂わすことができるのよ」


そう言えばアランは押し黙ってしまった。

幼い頃からの王妃教育で沢山のことを学んだし、沢山の現場も見た。

あの頃の私はまだ幼かったから上手く理解できなかったが、今となっては分かることもある。

だから軽率な行動は慎まなければならないのだ。


「まぁ即日でどうにかしようとは思っていないから長期的に考えるわ。国王様にもご挨拶に行くことになりそうだし」


そう言った時、ちょうど馬車は家に着いた。

アランの手を借りて馬車を下りれば、メイドの1人が近づいてきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま」

「ご主人様がお呼びです。帰宅後、ご主人様のお部屋に向かうようにと伝言です」

「分かったわ。ありがとう」


メイドは頭を下げてから自分の仕事に戻っていった。

その背中を見送ってから、玄関ホールにある階段を上って自室に戻る。

外出着から室内用のドレスに着替えて、髪を整えてから再びお父様の部屋の扉の前に立った。

アランには席を外してもらい、私の片手には王族の紋章のシーリングスタンプで封をされている手紙が握られている。

軽くノックをして返事を待ってからドアノブに手をかけた。

中に入るとお父様はソファーに腰掛けていて、対面する位置に座るように促された。


「突然呼び出したりしてすまなかったね」

「いえ、構いません」

「アランからリディアがアカデミーを早退してくるという話を聞いて大体察したが、改めて説明してもらえるか?」

「はい。今日のお昼にテオード殿下がアカデミーを訪問され、そこでこの手紙を受け取りました。内容を聞いたところ、次期王妃についてのことらしいです」

「ふむ」

「……あと、後日お城でテオード殿下とお茶会をすることになりました」


報告しないわけにもいかないので渋々伝えれば、お父様は笑いながらこちらを見た。


「そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいではないか」

「お父様はテオード殿下とお茶会をしたことがないから笑えるのですよ。結構頭使いますからね」

「噂では聞いているさ。テオード殿下は随分頭が切れるお方らしいからな」


噂以上に話術、雰囲気、表情など様々な方法を使ってこちらを試そうとしてくる。

しかもそれに気づかれないように仕掛けてくるから厄介だ。


「とりあえず、今後城に通うことも多くなるだろうから明日はアカデミーを休んでドレスなどを見てきなさい」

「いいのですか?」

「先生方も理解のある方々だから問題ないだろう。私から伝えておくよ」

「ありがとうございます」


アカデミーの話も交えながら話し続けていたら、いつの間にかいい時間になっていた。

紅茶を飲み干してから立ち上がる。


「では、明日のためにもそろそろ自室へ戻らせていただきます」

「あぁ、もうそんな時間か。また時間があるときでいいからアカデミーの話を聞かせてくれないかい?」

「勿論です。では、失礼します」


一礼をしてから部屋の扉に手をかけた。


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