香澄

「隼人くん」


 幸せな世界に、甘い声が響く。


「ね、抱きしめてもいい?」


 好きだって気持ちが抑えきれなくて、返事の代わりにハグをした。回転寿司なのに。


 でもその場所が回転寿司だからといって雰囲気が変わることはなかった。


 至近距離の香澄は、甘く柔らかい匂いがした。


 髪に触れると、絹を撫でているような、そんな感覚だ。


 俺よりも小さく柔らかい体を、優しく抱きしめる。


「くすぐったいよ」

「ごめん」

「でも、心地いい。離さないでね」


 香澄が想像の何倍も可愛くて、離してと言われても離せなさそうだった。


 それからどれくらいの時間が経っただろう。とても言いづらそうに、回転寿司の店員さんが言った。


「お客様、お食事が終わりましたらお帰りいただけますか?」

「!? すみません、すぐ帰ります。会計お願いします……」


 店員さんが会計をしている間、香澄と顔を見合わせる。


 どちらも苦笑い。

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