名前呼び

「清原くん!」


 諦めたと思ったら、香澄は大声で直接隼人を呼んだ。


 隼人はひとまず無視するが、だからといって全く反応しないのも申し訳なく思えて、軽い罪悪感を抱きながら窓の外を見る。


「清原くん、聞こえてないの?」


 香澄が大声で隼人を呼ぶと、何事かと周囲の視線が隼人の方へ集まり、その誰かと目が合うのを恐れ、隼人は香澄の方は絶対に見まいと決意して窓の外を眺め続ける。


「清原くーん!」


 厄介なのは、隼人にとって香澄の訪問は鬱陶しいだけではないことだ。


 隼人の脳内には香澄の訪問を嬉しく思う隼人もいて、気を抜けば口元が緩んでしまいそうだ。


 そんな表情を万一にも香澄に見られるのは恥ずかしく、隼人は頑なに窓の外から目を離さない。


「隼人くん」


 恥ずかしげに香澄がぼそりと呟く。


 隼人は過去最高速で視線を走らせた。

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