聖夜、始まる

 夜が来た。


 例年の隼人なら、楽しそうに過ごしているであろうカップルに薄暗い部屋で明かりもつけずにケーキを独りで食べているが、今年はそうではない。


「それじゃあ、そろそろ出かけようか」


 香澄は、朝食ののちに紺のジーンズに白のセーターを合わせた服に着替えていたが、外は寒そうなので上にベージュのコートを羽織る。


 隼人は、オシャレさの欠片も見られない無地の白いTシャツに、箪笥を漁ったら出てきたジーンズという装いで、その上にクローゼットに入っていた適当な上着を着こむ。


「失礼かもしれないけど、清原くんがモテない理由がわかった気がする」

「返す言葉もございません」


 しかし香澄は隼人のその恰好を、気にはしつつも嫌がりはしなかった。


「どんな格好をするも人それぞれだけどね。楽そうだし」


 そう言うだけで済ませる。香澄は他人の価値観にはあまり口出ししないタイプのようだった。


「じゃあ、住友さんはどんな服着てほしい? こう、隣を歩いてて恥ずかしくないとか」

「私は別に気にしないけど……今度、一緒に服を買いに行こうか」


 次の約束ができて、隼人は喜んだ。

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