蟻踏み

鮭さん

第1話

 女はね、危険な男が好きなんだ。優しいだけじゃあダメなんだ。振られて分かったぜ。今日からたくさんアリを踏もう。


 ふみふみ、ふみふみ


 沢山のアリが私の足で踏み殺されて行きます。平べったくなって行きます。


 ふみふみ、ふみふみ


 ふふふ、10匹は踏んだかな。危険度アップだぜ。


 私は満足してナンパを始めました。あ、きれいなおねえさん、綺麗なお姉さんがいるぞ。


「お姉さん、お姉さん。一杯どう?ちなみに俺、毎日アリ踏み殺してんだよねー。」


「......。」


「はははは、無視?ははははは。」


 はっはっはっ、俺はもう悪い男だぜー。はっはっはー。やるやつだぜー。モテモテだぜー。


「.........うざっ。」


 振られてしまいました。まあ、一回目だし、振られても仕方ないさ。その後も私はナンパし続けました。


「お姉さん。わたしはアリを踏み潰しています。デートしましょう。」


「....。」


 ちっ、無視かよ...。


「お姉さん。わたしは日常的にアリを踏み潰しています。」


「.......。」


 ちっ、また無視かよ.....。あまり効果がありません。しかし私は諦めませんでした。毎日毎日ナンパをしました。そして、数年が経ちました。いつの間にかわたしには「蟻踏みのナンパー」という異名が付けられていたのです。


 トコトコトコトコ


「お姉さん、俺毎日蟻、踏んでるんだけどお茶しない?」


「えっ、もしかして、『蟻踏みのナンパー』さんですか?」


「おおよ。俺が蟻踏みのナンパーだ。」


 キャーッ!!かっこいいーっ!!


 蟻踏みのナンパーよーっ!!


 街に出ると私の周りにはあっという間に人集りが出来ました。はっはっは、継続は力なりだぜ。継続は力なり。継続は力なり。俺はナンパ会のイチローだ。


「なんなんだあいつ....。蟻を踏んでるからって....。なんもかっこよくない!!偉くもない!!」


 はははは、男がまた嫉妬してるよ。ははははは。あっという間に蟻踏みのナンパーの名は、世界に轟きました。


「オー!!ジャパニーズアリフミノナンパー!!」


「ギブミーサイン!!」


 はははは、すげー!!世界の蟻踏みのナンパーだ!!私は完全に有頂天になってしまいました。うちょーっ!!うちょーっ!!金持ちになった私は外車とかを乗り回して蟻を踏みました。蟻を踏むために外車を買ったのです。しかし、外車売りの社長が蟻ファンだったのです。


「私の売った車で蟻を踏まれるなんて心外だ!!」


 へっへっへっへーっ!!そんなこと、知るかーっ!!


 私は気にせずアリを踏み殺していました。そんなある日、いつものようにアリを踏み殺していると....。


「たかしっ!!なにやってるのよっ!!」


 この声は、母です。母にアリを踏み殺してる所を見られてしまったのでした。


「優しかったたかしがっ.....何やってるの...どうして....どうして....。」


 母は悲しんでいました。涙を流しています。母が悲しむ姿を見るのは辛いです。でも私はもう蟻踏みのナンパーとして引き返せないところまで来ていました。私は母を無視して蟻を踏み続けました。


 ふみふみ、ふみふみ


「やめなさいっ!!」


 しるかーっ!!


 ふみふみ、ふみふみ


「もうあなたなんて、私の息子じゃありません!!」


 母はそう言って、帰って行きました。


 へへへーっ!!知るか知るかーっ!!


 蟻踏み!!蟻踏み!!いつの間にかタップダンスのように蟻を踏むようになってました。タタタタタッ!!タタタタタッ!!タップダンスが上手くなりました。わたしはタップダンスの大会に出て優勝しました。それに対し、タップダンスキングがコメントしました。


「彼は確かにタップダンスは上手い。しかし、蟻踏みなんかで、命を粗末にしてタップダンスが上手くなったものなんか私は嫌いだ。」


 へっへっへーっ!!知るか知るかーっ!!


 私は蟻踏みを続けました。ある日、夢に蟻が出てきました。


「蟻踏みはやめてほしい。私たちにも命がある。」


 へっへっへー!!知るか知るかーっ!!


 私は蟻踏みを続けました。いつの間にか彼女ができ、そして子供ができました。名前は「アリフミ」にしました。立派な蟻踏みになりますように。そしていつの間にか、アリは絶滅危惧種になりました。私が蟻を踏み過ぎていたせいです。


「蟻を踏むのは即刻やめてほしい。」


 生物保護団体が言いました。


 へっへっへ!!知るか知るかーっ!!


 私は蟻踏みを続けました。


 ふみふみ、ふみふみ


 そして遂に、アリはこの世からいなくなりました。


「アリーッ!!アリーッ!!」


 私は蟻を踏み殺せないショックから、毎日悶え苦しみました。そうです。薬物中毒のようになっていたのです。


「アリーッ!!アリーッ!!」


「あなた!!大丈夫??」


 妻が駆け寄ってきますが私が求めているのは妻ではありません。アリです。


 うわああああああああああああ!!


「お父さん大丈夫??」


 息子のアリフミも駆け寄ってきますが私が求めているのは息子ではありません。アリです。


 私は頑張ってアリロボットを作りました。


 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蟻踏み 鮭さん @sakesan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ